音楽の世界は1位になることがすべてではない
そんなときに出場したのが、スペインのサンタンデール国際ピアノコンクール。心の底から勝ちたかったし、優勝を確信してもいた。でも、結果は3位。悔しくて、これからどう道を切り拓けばいいのかと落ち込みました。
しかし幸運なことに、コンクールを通して知り合った方のおかげで南米ツアーが実現。さらにその後、スペインやドイツ、ドミニカ共和国などの演奏会に何度も呼んでいただいたのです。「コンクールで聴いた演奏が良かったから」と。すごく励まされましたね。
音楽の世界は1位になることがすべてではない。聴いてくれる人に感謝し、そのつながりを大切にしなければいけないのだと気づかされました。そこから一つひとつの出会いが少しずつ広がったおかげで、今もヨーロッパで演奏活動ができているのだと思います。
フィギュアスケーターの方々と共演することができたのも、そう。もともとファンだったステファン・ランビエルさんを成田空港でお見かけしたときに、勇気を出して声をかけなかったら。演奏会に招待しなかったら――、私が羽生結弦選手や他の素晴らしいスケーターと共演する機会も訪れなかったのかもしれません。
音楽家は音をどう生み出すか考え、スケーターは音をどう捉えて体で表現するか考えます。対照的だからこそ意見が合わないこともある。でも、あまり意識していなかった“音の間”に対するこだわりを見て、自分からも探るようになったりと、共演することで私の抽斗も増えていきました。
6月には、日本で活躍するピアニストの方々と「ららら♪クラシックコンサート」で共演します。しかも今回は数限られる連弾特集ということで、今から楽しみです。ラインナップもバラエティ豊か。バッハからカプースチンまで、それぞれ音楽のスタイルが違って面白い。新しい音との出会いをきっかけに、みなさんの音楽世界が広がれば私も嬉しいです。