安藤 「苦労して育てた子どもたちに、こんなひどい仕打ちを受けるなんて!」と、罵倒されました。それで、私が自分の家に引き取って、母の面倒を見ようと思ったのですが……。
桜木 思いとどまったのは?
安藤 ずっと私の家に来てくれていたお手伝いさんが、「優子さんが仕事で海外に行かねばならないときに、お母さまの面倒は誰が見るんですか? いっときの感情で引き取るなんて言ってはいけません」と言ってくれたおかげで、冷静になれました。
桜木 窮地でこそ出合えるいい言葉ってありますね。
安藤 本当に。もし母を引き取っていたら、早々に行き詰まっていたと思います。親に対してよかれと思ってやったことがことごとく否定されてしまえば、誰でも精神的に追い詰められてしまう。
決して肯定するわけではありませんが、その結果、どこかで道を間違えて親を殺(あや)めてしまう人の気持ちもわかりました。介護に関しては、八方ふさがりの親子関係を第三者にかき回してもらう必要があるんです。
桜木 他人が入ると、家族という鍋の底が焦げつかずに済みますよね。
安藤 晩年の母は本当に穏やかでした。臨床美術に出合い、絵を描くことで認知症でも自分の思いを表現できた。最後まで母らしく過ごせたのは、施設に入ったおかげです。
桜木 この半世紀で時代もずいぶん変わりました。公的な介護サービスを受けるために、介護保険もあります。
安藤 日本の社会は、まだまだ「自助」の精神に縛られていますよね。「人に迷惑をかけてはいけない」という自己責任論が強く、他人にSOSを出すことを恥じてしまう。
でも、よく調べれば公的に使える制度はたくさんあるし、補助もある。使える手は猫の手でもいいからすべて借りて、自分の負担を少しでも減らしたほうがいいですね。