「日本の社会は、まだまだ《自助》の精神に縛られていますよね。《人に迷惑をかけてはいけない》という自己責任論が強く、他人にSOSを出すことを恥じてしまう」(安藤さん)

「長男の妻」の立場に縛られず

桜木 先ほども申し上げましたが、小説を書くと決めたときに義実家とも少し距離を置いたので、私は夫を「不肖の長男」というポジションに追い込んでしまいました。安藤さんは、義理のご両親とはどのようなおつきあいをなさっていますか?

安藤 うちの夫も長男で、出身は宮城です。ただ、義父は早くに亡くなっており、義母の面倒は地元に暮らす夫の妹夫婦が同居して見てくれています。

経済的な援助はしているものの、夫は妹に親を任せていることに、長男として葛藤があるようです。かといって、東京で仕事をしている私たちが宮城に住むわけにもいきませんし……。

桜木 うちも昨年、義父が亡くなりました。義母のことは実家の近所に住む夫の弟夫婦に甘えています。36年いろいろあるうちに、自然とそういう流れになって。夫は「親の面倒は長男が」という人でしたが、私と長く一緒にいることで、考え方が変化してきているのを感じます。

安藤 長男の妻であっても、夫の家族の歴史は知らないことがたくさんあるでしょう。親戚との関係や地元の風習なども。その中によそ者の私がどこまで入り込むべきなのか、正直言ってよくわからないんですよ。

桜木 私が暮らす北海道は、祖父母の代に家や親を捨てて移り住んできた開拓民の土地柄なので、家族の歴史も浅い。けれど、本州の場合は違うんでしょうね。