「やったな、中園さん」

中園さんから脚本をいただいて、「たくやが歌う」と書いてあったので、「やったな、中園さん」とは思いました(笑)。ただ、あまり目立つフックになってしまうと、作品の邪魔になってしまうので、そこは繊細に演じたいと、監督や匠海くんともお話をさせていただきました。

大前提として、たくやはプレイヤーではありません。人は歌うときって、少しのためらいがあると思うのでそのニュアンスは大切にしました。すぐに歌い出すような、レスポンスの早さがあると嘘っぽく見える。歌うシーンでは、ミセスである自分を消してたくやを演じることを普段の撮影より意識したかもしれません。ミセスはキーがすごく高いのですが、たくやとして歌う時には、なるべくキーを抑えました。

(『あんぱん』/(c)NHK)

実際に、いずみたく先生の事務所の方にお話を伺ったんです。先生は非常に出たがりで、「あ、歌うよ?」という感じだと聞いたので、その部分は大切にしました。いつも表に出ないからこその「出たい」という欲求もあるだろうし、そのコントラストは自分でもすごく意識して演じたんです。

これから、やなせたかしさんが作詞、いずみたくさんが作曲した「手のひらを太陽に」が劇中に登場します。物心つくころには知っている、当たり前にある楽曲。どこで曲を認識したとか、流行っていたという次元じゃなく、残っていく。幼稚園で歌われ、童謡として知られ、人の日常に寄り添う音楽です。とてつもないこと。音楽って偉大だと改めて思いました。

やなせさんの作詞の力強さも感じています。誰しもが想像できるシンプルなワードを紡いでいる。幼い子でもわかる歌詞がいちばん難しいと思っているので、そこを大切にされているのは素晴らしいと思いました。