東海林さんは7年前に夫を亡くした。子どもは一男一女で、長男一家は東海林さんが一人になる前から同じマンションの別の階に住んでいる。長男の妻にとって東京は慣れない土地だったので、あえて近居を選んだ。
東海林さんはこの数年で何度か骨折を経験。動きが制限されている間は息子家族に助けてもらったというが、健康にはまだまだ自信がある様子だ。息子が心配するので歩行時に杖を使うことはあるものの、介護保険は利用していない。基本的にどこへ行くにも一人で行動する。
「80代の頃はまだ息子たちと一緒に出かけたり、お嫁さんや孫に対しても〈おばあちゃん〉として行動していました。でも、もう卒業。最近は息子たちもわかっていて、私に言わずに家族で出かけて、あとで写真を送ってくれたりお土産を持ってきてくれたりするんです。私はそれで十分。一緒に行っても皆と同じように歩けませんから」
気兼ねなく自分のペースで過ごす毎日が、本当に楽だという東海林さん。長女ともつかず離れずのいい関係を保っている。
「娘は離婚して一時期うちに戻ってきていたんです。でも一緒に住んでいると、どうしてもお互い気を使う部分が出てくるでしょう。今は彼女も独り立ちして、働きながら一人暮らししています。
といっても近所なので、ごみを捨てに来てくれたり、何かと助けてもらって。その代わり月に1、2回は一緒に外食して、私が娘の仕事の愚痴を聞いてあげます」
息子も、同じマンションに住むものの、しょっちゅう訪ねてくるわけではない。だが、毎日のように東海林さんのスマホに動物の動画を送ってくる。それに対して「かわいいわね」と返信することが、生存確認にもなっているという。