「本当に大切なのは自分自身です。自分の人生を、親への憎しみのために失うわけにはいかんのですよ」

母や兄がどこに住んでいるのかは、芸人になってからも知らないままでした。でも、僕の中には母に対する怒りがずっとくすぶっていた。「この思いを払拭するためには会うしかないのではないか」と考えて、母親を探して会いにいったのは5年前のことです。

16年ぶりに再会した母は、開口一番、「ずっとお兄ちゃんばかりかまって、ホンマにあんたには何にもしてやらんかったことが心にひっかかっていた」と言いました。この時点で、母は自分のきょうだいからも総スカンをくらって孤立していたようです。なので、僕は母なりに反省しているのかと思い、「今芸人として楽しく過ごせているので気にしないでください」と答えました。

そしたら母は、「お兄ちゃんはあのあと、一流大学を出て海外に留学しはって、大企業に入って、今その国で出世して永住権もとって……」と、兄の自慢話を始めるじゃないですか。続けて「実はお母さん、去年再婚したんや」と言い、「相手は京都で事業をやっている人ですごいお金持ちで……」と、今度はその人の自慢話。

「ストーップ! もういいです。もう十分です」と。このとき、ホントにプツンと縁が切れた、と思いました。5年前のあの日、思い切って会ってよかったと今も思います。何年も抱えてきたモヤモヤが、会ったことでスッキリしました。今後、会うことは絶対にありません。

僕は小学生のときから、母を殺したいと思いながら生きてきました。何度も何度も「殺したろか!」と気持ちが高ぶった。でも、手にかけないですんだのは、僕が僕の人生に希望を持っていたからやないか、と思うのです。こんな母親でも、殺せば僕が罪人になる。自分の人生を台無しにしてしまう。それはイヤや。本当に大切なのは自分自身です。自分の人生を、親への憎しみのために失うわけにはいかんのですよ。