父は我慢して我慢して、我慢ができなくなって死んだんだと思います。母との生活ですっかりうつ状態にもなっていました。ところが葬儀のとき、父方の親戚一同を前に母は「主人は心臓発作で死にました」とウソをついた。このとき、「お前をもう絶対に許さへんぞ」と思いました。このままにはしておけない。葬儀を終えてから、僕は全親戚に父が首吊り自殺であることを伝える手紙を送りました。
父方の親戚も「きっと自殺だろう」と気づいていたらしく、「よく勇気を出して言ってくれた」と感謝されました。でも、「もうあんな母親とは縁を切ります」と言うと、「血が繋がっているのだから、そんなこと言わずにがんばりなさい」と励まされてしまった。口では「はい」と答えたものの、そんなのもう無理やと思っていました。
四十九日で集まったとき、僕は母親に「お前のせいでこんなことになったんやろ! お前が死ね」と怒鳴ったんです。そのあと、「遺産は一切放棄します」と一筆書いて母に送りつけました。するとしばらくして兄から「お前の店は父さんの名義になってるやろう」と連絡がきたんです。とにかく縁を切りたかった僕は、「そうかい、わかったよ」と、その日のうちに居酒屋を畳みました。
親になる恐怖心から妻とも別れて
父が死んだことで、僕はすっかり生きているのがイヤになってしまった。手元にあった、まとまったお金を全部持ち、リュックには自殺用のロープだけを入れて東南アジアへと旅立つことにしました。死に場所を求めての旅。いい木があったらそこで首を吊ろう、それよりも先にお金がなくなったらそこで死ねばいいわ、と。こうして僕は、放浪の旅に出たのです。
半年くらいたったころ、ミャンマーのフェリーで偶然日本の方と乗り合わせました。最近日本で起きていることを聞いたら、「ダウンタウンの松本人志さんがドラマに出ていますよ」と言う。僕はダウンタウンがめちゃくちゃ好きだったのですが、ドラマには絶対出ないと著書にまで書いていたはずの松本さんが出るドラマってどんなのだろう、と。どうしても見てみたくなって、一時帰国を決意しました。(笑)
転がり込んだ友達の家で見たのが、ドラマ『伝説の教師』でした。松本さん演じる教師が、「人間に与えられた唯一の特権は笑うことや。眉間に皺寄せて苦しみながら死んでいきたかったら勝手にせえ。笑いながら死ぬか、笑わんと死ぬか、お前が決めたれ」というセリフがあって。僕の胸に、この言葉はグサッと突き刺さりました。と同時に、このとき芸人を目指すという道が見えてきたのです。