目を開けるとそれはピタリと止んだ…(写真:stock.adobe.com)
気になるニュースや家族のモヤモヤ、日々の生活で感じたさまざまな思いや誰かに聞いてほしい出来事など、読者からの投稿を紹介するWEBオリジナル投稿欄「せきららカフェ」。今回ご紹介するのは、50代の方からの投稿です。温泉旅館を訪れた夜、ベッドでうとうとしていると――。

温泉旅館で…

どっさりと雪が多い年に、疲れをほぐしたくて温泉を予約し、当日は早めに宿に着いた。フロントのお客は少な目で、どこかのんびりしている。部屋も食事も、何より温泉が心地よく、来て良かったと寛いだ。

お酒を軽く飲み、ほろ酔いでベッドに入ってうとうとすると、何か、聞こえた。

ぱっと目を開けたが何もない。夫は横のベッドで寝息を立てている。

空耳かなと再び寝入ると今度は、はっきり聞こえた。グワーッという迫力ある唸り。

鬼気迫る音に、動物だ!と咄嗟に思ったが姿は見えず正体は分からない。

目をつぶるとすぐ側に音の圧迫を感じるが、目を開けるとそれはピタリと止んだ。

横になったまま、緊張で身体は強張り頭も冴えるが恐ろしくて起き上がれない。そのまま何度も目を開けたり閉じたりを繰り返した。

顔を向けたら目が合った枕元の犬の写真に、あの世の事なら追い払えぬかと頼んでみたが無謀だった。

闇に轟く音が異世界と繋がっているようで恐ろしく、怯えたまま朝を迎えた。

 

数年経ち、ある早朝にゴミを出そうと外へ出たら「こんにちは」と背後から爽やかに声をかけられた。私も返事をして振り返ったが、そこには誰もいない。

空が青く透けた日だった。その場所に姿の無い声だけが耳に残り、背筋がゾッと震えた。

 

どこからか不思議な音が聞こえてくるのなら、その世界の入り口は意外な近さに在るのかもしれない。

 

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