3.寄り添い:お客様と同じ目線に立つ

仮説を立てたら、次はお客様に寄り添います。これは物理的な距離感だけでなく、心理的な距離感も意味します。

鈴木さんは前田様の歩くペースに合わせ、決して急かすことなく、自然な会話を交わしながら移動していました。この「寄り添い」の段階で、先に立てた仮説を検証し、必要に応じて修正していきます。

たとえば、「思ったより歩くのが大変そうだ」と感じれば、より近い席を考える。逆に「意外と元気そうだ」と感じれば、友人がいる少し離れた席を提案するなど、柔軟に対応を調整します。

この「寄り添い」の過程では、お客様の反応を注意深く観察し、言葉にされないニーズや希望を汲み取る力が問われます。時には直接質問することもありますが、多くの場合、一流のサービスパーソンは「聞かなくてもわかる」レベルの感性を持っています。

帝国ホテルのコンシェルジュの田中さん(仮名)は、「お客様が何かを質問されたとき、その裏にある本当の疑問や不安を読み取ることが大切」と述べています。

たとえば「近くに良いレストランはありますか?」という質問の裏には、「初めての土地で不安だ」「予算内で満足できる食事をしたい」「特別な記念日なので失敗したくない」など、さまざまな思いが隠れています。田中さんは、その質問の真意を探りながら会話を続け、お客様が本当に求めているものを見極めていきます。

これこそが「寄り添い」の本質です。