ゆで卵エピソードが生まれたのは

<物語のスタートは昭和2年。幼いのぶたちの穏やかな日常が、徐々に軍国主義に染まっていく。成長して教師になったのぶは、軍国教育の当事者にならざるをえなかった。第11~12週では、2週間に渡り、出征した嵩を中心に物語が進む。アンパンマン誕生につながる重要なエピソードが、戦争中の飢えを描いたシーンだ。康太は空腹に耐えられず老婆の家に押し入り、「食べ物を出せ」と銃を突きつけた。嵩と神野が止めると、老婆は家の奥から籠に盛った生卵を持ってくる。康太たちがそのまま食べようとすると、老婆はその場で卵を茹で、嵩たちに分け与えてくれたのだ>

(『あんぱん』/(c)NHK)

空腹の人を救うというアンパンマンの正義を伝えるには、空腹がどんなにつらいか、空腹が人を変えてしまうこともあるということを描く必要がありました。その時に、子どものころにラジオで聞いたニュースを思い出したんです。あるおばあちゃんの家におなかをすかせた泥棒が入ったら、おばあちゃんが「おなか空いているんだろう」とゆで卵を出してあげた。泥棒はそれを泣きながら食べて自首したというもので、それを戦場のシーンにしました。

ト書きには、「かぶりつく」としか書いていないので、極限に空腹の人がどうやってゆで卵を食べるのか、そこは現場に任せていました。映像を見たら、殻ごと食べるというシーンになっていて驚きました。俳優たちが自分の肉体を使って見事に演じてくださったのです。俳優のみなさんは絶食して撮影に臨んでくださったと聞きましたし、演出家をはじめスタッフも頑張ってくれて素晴らしい映像になり、本当に頭が下がりました。