“何者にもなれなかった”のぶ
<『女子も大志を抱け』と父・結太郎(加瀬亮さん)から言われて育ったのぶ。教師になったものの軍国教育に携わったことから戦後、教師を辞めることに。政治家の秘書になったが、嵩と結婚後は秘書をくびになり、紹介された会社も辞めさせられてしまう。第105回では、「何者にもなれんかった」と嵩に苦悩を告白。「嵩さんの赤ちゃんを産むこともできんかった」と涙を流した。嵩は「そんなこと、誰のせいでもないよ。ボクたち夫婦は、これでいいんだよ」と優しく伝えた。「精一杯頑張ったつもりやったけれど、何者にもなれんかった」と吐露するのぶの姿は反響を呼んだ>
のぶのモデルである暢さんは、資料がほとんど残っていません。「ハチキン」と言われるような男勝りだったこと、高知新報時代に広告料金を払わない商店の店主にハンドバッグを投げつけたことなど、やなせさんのエッセイの中に5つくらいのエピソードがあるぐらいでした。
取材をしようと、暢さんを知っている人を探しまわって、やなせ先生たちと同じマンションに住んでいたノンフィクション作家の梯久美子さんや、編集者の方にお会いしましたが、みなさん、暢さんとはほとんど会ったことがなかったそうです。そう聞くと、暢さんは陰でやなせ先生を支えるということに一生懸命になっていたし、あえて表に出ないようにしていたように感じるんです。
なりたいものがあって夢を描いていた女の子たちが、大人になると結局夫のため、子どものために家族を支える人になる。のぶのような女性は、私の周りにもたくさんいました。
ふとした時に、自分の中で「あれ、私の人生こんなはずじゃなかった」と感じてしまうことは、女性が生きていたら必ずあると思うんです。最近は同窓会が増えてきて、私の周りの友人たちもそうい感じている人が多いようです。特に一生懸命生きてきた人こそ、強く感じるんだと思います。そういう女性たちの声を聞いていたから、その心の叫びはちゃんと書きたいと思ったんです。
ドラマの中のぶは、小さいころ、父親から『女子も大志を抱け』と言われていたので、今の自分を振り返り、のぶ自身が立ち止まって考えたこともあったんじゃないかと思い、のぶに「何者にもなれんかった」というセリフを書きました。