「私たち3人はいずれも遠距離で仕事を抱え、父と同居できる状況ではありませんでした。私自身、介護休暇をとることもままならず、月に一度、飛行機で往復して1泊2日の帰省をするのが精一杯。叔母にも助けてもらいながら、誰かしらが週に一度は家に行けるようローテーションを組んで、綱渡りの看病が続きました」

父の頑張りと新薬の効果もあって、がんは寛解に近づいているように思えた。ほっとして、「お父さんたら、80歳までも生きると思うよ」と軽口もきけるようになっていた昨年の夏のことだった。

「突然、警察から電話があって、父が自宅で倒れ、亡くなったことを知らされました。死因は心筋梗塞だと」

一度は覚悟した父の死だったが、見事に回復して喜んだのも束の間、思いがけずあっけない最期を迎えたことに、ユリエさんの感情は追いつかない。

「母は50代で亡くなり、父は76歳でした。長生きの家系でないことは確かですが、それにしても想定外の展開。以来、事件や事故で命を落とす人のニュースに敏感になり、自分もいつ巻き込まれるかわからないと思うようになったんです」