爪の状態が歩行に影響する
爪の表面が剥離する二枚爪や、爪の端が皮膚に食い込むなど、痛みや炎症を伴うこともある爪のトラブルは、みなさんにとって身近な悩みではないでしょうか。私はこれまで、皮膚科医としてさまざまな爪の疾患と向き合ってきました。
なかでも巻き爪など足の爪のトラブルを根治するためには、患部だけでなく、歩き方、靴の選び方をはじめとした生活習慣を改善する必要があると感じ、2007年に大学病院でフットケア外来を開設したのです。患者さんには中高年女性も多く、外反母趾など複合的な症状を訴えて来院される方が少なくありません。
そもそも爪とは、皮膚の一部で、表皮の角質層がケラチンというたんぱく質に変化したものです。体の中では小さなパーツですが、指の機能を高める重要な役割を担っています。一つは指先の保護。軟らかい皮膚の表面を硬い爪が覆って、外部の衝撃から守っています。また指の先端には骨がないため、指の力を増強するという働きも。さらに、指の触覚を鋭くする、指の動きのバランスをとる、といった役目を果たしています。
爪の形が変化したり色が悪くなったりするのは、年齢のせい、と思っている人もいるようですが、実はそうではありません。生理的な爪の老化は、爪の表面にできる細いすじ、「縦線」のみといわれ、高齢になるほど線が多く濃くなっていきます。
それ以外の、例えば二枚爪や巻き爪、ささくれといった症状は年齢に関係なく起こるもの。その人の体質、クセ、生活習慣といった個性による影響が大きいといえます。ただ、年を重ねると、間違った爪の切り方や歩き方のクセなど、長年の蓄積によって痛みや病変が表れることが増えるのです。
爪のトラブルは、内臓などの不調に比べて軽視されがちですが、放置すれば、生活の質を低下させることにもつながります。手の爪や周辺に傷などがあると、痛みで動きが制限されたり、料理や洗いものなど家事がやりづらくなったりするでしょう。傷口から感染症を起こすリスクも高まります。