かつての女性写真家ブームを、当事者が捉えなおしたら
1990年代に日本の写真界では、公募展出身の若い女性写真家の活動が脚光を浴び、評論家や多くのメディアはそれを揶揄と称賛を交えて「女の子写真」と呼んだ。著者は2001年にHIROMIX、蜷川実花とともに木村伊兵衛写真賞を受賞するが、ブームの渦中にあって事態に大きな違和感を覚えていた。この現象の当事者として彼女は大学院で最新のフェミニズム理論を学ぶことを選択し、修士論文を執筆した。本書はそれに加筆したものである。
講談社エッセイ賞を受賞した『背中の記憶』という著作もありながら、著者が本作を文芸作品ではなくあえて硬質な学術論文として書いたのは、自身の深く関わったこの現象を写真史のなかで正当に記述しなおすためだ。
題名にある「僕ら」とは、当時「女の子写真」という言葉によって彼女らの活動を女性的なものとして乱暴に括り、もてはやしつつも、「抑圧」した批評家やメディアを指す。他者により与えられたこの名の不当性を、著者は(当時の自身の発言を含む)膨大な文献に対する史料批判を通じて証明していく。その上で、この時代に一連の若い女性写真家たちによって行われた創作行為を、「ガーリーフォト」という別の批評家の用語で捉えなおす。
こうした分析を通じ、著者は自身の創作活動を日本の写真批評の狭い言説から解き放ち、ファッションやロックやジン(手作りメディア)までの広がりをもつ、「第三波フェミニズム」とも呼ばれた90年代の世界的な文化潮流に呼応したものとして位置づけるのだ。
本書は果敢なフェミニズムの実践であるだけでなく、その理解を後続の世代に促す優れたサブテキストである。
著◎長島有里枝
大福書林 3300円