重松 本を読んで、さらに興味が広がることも?

芦田 たとえば平安時代の文学を読むと、今度は平安時代の女性についての本を読みたくなります。

伊藤 本が本を呼ぶのはいいですね。平安時代のことはどうやっても体験しようがない。現実には体験できないことを、また別の本で追体験することにより、さらに世界が広がっていく……。

重松 だから冒険や体験談も読みたいし、空想や夢物語も大事なんですね。

伊藤 たとえば犯罪もそうです。なぜ人が罪を犯してしまうのか。単に裁判記録を読むだけでは見えてこないものがある。友人が裁判官で、司法教官もしているのですが、司法試験に受かった人たちに言うのが、とにかく小説を読めと。

芦田 なぜですか?

伊藤 本も読まず、試験勉強だけしてきた人には犯罪者の気持ちがわからない。たとえば、貧しくて犯罪に走ってしまった心理だとか。だけど、血肉のある文章で書かれた小説を読むことで、罪を犯した人の心情をたどることができます。

重松 愛菜さんもご著書で、読書のいちばんの魅力を「自分とは違う誰かの人生や心のなかを知ること」と書いていますね。

芦田 はい。だから本を読むたびに、新しい発見があります。

 

台本はマップ、小説はサーフィン

重松 愛菜さんの場合、台本と小説を読むときでは、どんな違いがあるのでしょう。

芦田 台本には、言わなきゃいけないセリフ、こうならなきゃいけない結末があります。そのなかで役者はどう自分を表現するか、監督はどういうふうに撮るか。台本はみんなで作品をつくっていくためのマップみたいなもの。それに対し小説は、作者に誘導されている感じがします。伏線などもあって、作者のつくる波に乗ってサーフィンを楽しんでいるような。