重松 書店にはよく行きますか?
芦田 本屋さんを見つけたら寄りたくなります。本に会いたいので。
重松 その「会いたい」というのがいいなあ。
芦田 本を見つけるのは宝物を発見するのと同じです。小さい頃から本屋さんに行くと、「何冊買っていい?」と親に聞いて「これも」「あ、これも」と目移りしながら、読みたい本を選んでいました。ハードカバーの本を初めて開いたときのパキパキッという音や、紙の匂いも好きで。「ああ、ここまで読み進んでいる」という実感が、めくっていくページの厚みでわかるのも楽しいです。
重松 僕も小学校3、4年の頃、デパートに行っておふくろが買い物をするあいだ、ずっと本屋さんで待っていてね。背表紙を見ながら、「いいなあ」と思った本を棚から半分、引き出しておく。おふくろと昼ごはんを食べて、さあ、お目当ての本を買ってもらおうと思ったら、もう売れていて(笑)。本屋さんはそんなふうに、小学生がひとりで1時間いても不思議ではない空間でした。
伊藤 最近は、書店に行く人がめっきり減っていますね。行っても、すぐに検索機を見る。これだと、目的の1冊を買うだけで終わってしまう。本棚をず~っと眺めていくことで、「こんな本がある」「これも面白そうだから読んでみよう」となるわけで。時間があるなら書店で過ごし、新たな本との出会いを体験してほしいのですが。
重松 今は、本をスマホで読む人も増えました。
伊藤 学生にとって、世界はスマホのなかにしかないかのようです(笑)。電子書籍を読むようになると、書店にも行きません。私は電子書籍だと頭に入ってこなくて。電車のなかで読んでいた本が終わってしまうと、「ああ、どうしよう」と思います。読んでいる本とは別に、1、2冊のスペアを備えていないと怖い。
国語はすべての勉強の背骨
重松 本の読み方も変わってきましたが、「書く」ことの選択肢も増えています。ネットを通じて、誰もが気軽に、いろいろな形で文章を書くことができますし。
伊藤 私の受け持ちの学生の半分以上が卒業論文で小説を書いてきました。何かを読み、分析して論文を書くより、自分の思いを文字にしたい。つまり、インプットよりアウトプット。両者のバランスがよくないと、本当にいいものは書けないんですけどね。
芦田 私も何回か小説を書きたいと思ったことがありますが、なかなかうまくいかなくて。起承転結を組み立てられないといいますか。
伊藤 ぜひ書いてください。私は学生に「いい小説を書きたければSNSを控えなさい」と言っています。書きたい気持ちを安易に発散させないためです。