左から、大塚玲子さん、さかもと未明さん、信田さよ子さん(撮影:藤澤靖子)
親が憎い、きょうだい間にわだかまりがある──など、家族と折り合えず、人知れず悩んでいる人は多くいます。なぜ、それらの問題が表面化しづらいのか。それは「家族の問題は家庭内で解決するもの」という価値観に縛られ、身動きがとれなくなるからだと3人は話します。前後編でお届けする座談会の前編です。(構成=山田真理 撮影=藤澤靖子)

親がしてきたことは一種の虐待だと知って

信田 私のカウンセリングセンターへ相談に来る人の多くが、家族のことで問題を抱えています。特に血のつながった家族とうまくいかないという悩みは、なかなか周りには理解されにくいし、話しにくい。だから専門家に話したい、という事情があるのでしょう。

大塚 「しんどい」と思う相手がいても、その関係性を変えることができないのは「家族は大切なもの」「悪く言ってはいけないもの」という価値観がいまだ根強いからでしょうね。私も取材を重ねてきて、そこが問題解決のネックになっているなと感じることが多くあります。

信田 他人に相談しても「その程度で『つらい』なんて我慢が足りないだけ」といなされて、さらに傷ついてしまうことも多いですから。

さかもと それはまさしく私です! 実家に帰らなくなって32年、完全に縁を切って8年になりますが、それまで親や周りの人から「お前はワガママだ」と何度言われたか。日本人って、頑張ればわかり合えるとか、何があっても切れない絆がある、とか考えがち。でも、合わない人とは合わない、たとえ血がつながっていても。自分が苦しんできた経験から言えば、無理に合わせようとしてストレスになるより、離れたほうがいい家族はいっぱいいると思います。

信田 さかもとさんが、ご家族と縁を切ることになったきっかけは、何だったのですか?

さかもと 普段は温和な父が、お酒が入ると母に暴力をふるうのを小さい頃から見てきました。思春期に登校拒否や拒食症を起こして精神科に行きたいと言っても、「精神病なんて甘えだ」と拒否されて。家を早く出たくて、「漫画家になって自立したい」と伝えたら、「絵で生きていけるわけがない」と全否定。自立後、働きすぎて難病になっても、優しくしてくれたのは一瞬で、「一切関わりたくない」と突き放され……。いろんな葛藤が積み重なった結果なんです。