発売中の「婦人公論」4月13日号では母親との関係について信田さよ子さんが写真家の植本一子さんと対談している

子どもにしたことを忘れる親は多い

大塚 きょうだい間で差をつけて、無意識のうちに彼らの関係を壊すのも、虐待する親によくあるケースです。ほかのきょうだいがかわいがられていれば、親に問題があるのではなく、自分が悪いせいだと思わせられますし。

信田 母親はとにかく息子の味方。そのくせ娘と一対一になると「あなたしかいない」と頼るふりをしてみせるからタチが悪い。

さかもと 私が身体を壊すまで働いたのも、実家にお金を入れたかったから。絵でちゃんと稼げることを見せ、親に認められたかったのです。でも、何をしても喜ばれませんでした。

信田 ちょうどさかもとさんが漫画家として活動を始めた1980年代の終わりごろ、非常に興味深いデータが発表されています。「子どもを産むなら男の子か女の子か」という質問に対して、それまで「男の子」と答える人が多かったのに、初めて男女が逆転したんですよ。

大塚 なぜ娘のほうがいいという人が増えたのでしょうか?

信田 少子化で息子のいない家庭が多くなったこともありますが、娘も仕事をして稼げる社会になったことで、「養ってもらえるのでは」「あわよくば介護まで」と親が期待するようになったからだと思います。

さかもと 女性は頑張りますからね。私の友だちはみんな期待通りに勉強して働いて、婚期を逃しました。

信田 それはそれで、「孫が抱けない」って親は文句を言う。(笑)

大塚 自分の都合で言うことを変えていくわけですね。親が、子どもに対してしたことや言ったことを忘れるという話も取材でよく聞きますが、とても理不尽に感じます。

信田 忘れる親は本当に多いんですよ。それは「加害者は加害記憶を喪失する」という法則があるから。やられたほうにしてみれば、二重三重のショックですよね。加害者を追及しても、「お前が嘘を言っている」と責められる。当時の日記やほかの人の証言を突きつけても、「昔のことを蒸し返して執念深い」などと、さらに倍返しでキレられてしまう。

さかもと そういえば私も、思春期に精神科の治療を受けたいと言って反対されたことについて、大人になってから父に聞いたら、「そんなことあったかな」と言われて。ふざけんな! と思いましたよ。とても悲しかったです。

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