左から、さかもと未明さん、信田さよ子さん、大塚玲子さん(撮影:藤澤靖子)
親が憎い、きょうだい間にわだかまりがある──など、家族と折り合えず、人知れず悩んでいる人は多くいます。なぜ、それらの問題が表面化しづらいのか。それは「家族の問題は家庭内で解決するもの」という価値観に縛られ、身動きがとれなくなるからだと3人は話します。前後編でお届けする座談会の後編です。(構成=山田真理 撮影=藤澤靖子)

<前編よりつづく

家族の問題は恥や罪ではない

大塚 信田先生のもとを訪れる方は、どのようなきっかけでカウンセリングを受けようと思うのでしょうか。

信田 こうした家族関係の記事を読んで、という人が結構多いんですよ。

さかもと ひと昔前までは、「親が憎い」とか、今ほどおおっぴらに話せなかったですよね。メディアでも理想的な家族像ばかりが描かれていましたし。唯一ドロドロした家族問題を見せてくれたのが『婦人公論』でしたけれど(笑)、「私以外にも、家族のことで悩んでいる人がいる」とわかるだけで、すごく救いになった記憶があります。

大塚 私はウェブで家族問題についてのルポを連載しているのですが、「話を聞いてほしい」というメールをたくさんいただきます。応募の理由を訊ねると、「別の人の記事を読んで気持ちがラクになった。自分のつらい経験も誰かの役に立てばと思った」という人が多いです。

さかもと 私が家族の問題を公にしたのも、同じつらさを感じている人に「相談する場所はある」「家族の問題は恥や罪ではない」と、伝えたかったからです。

信田 「毒母」という言葉がありますね。一過性のブームのように消費されることに危惧も覚えましたが、実際には女子高生が「うちのママって毒母で」というようにライトな感覚で親の問題を口にできるようになった。これは大きな功績だったと思うんです。いまや70代、80代の人も、亡くなった親のことを「あの人は毒母でした」と表現して、思いを共有できるようになりましたから。

大塚 20年前に家族問題を取材したときは、まだ「毒母」という言葉はなく、90年代に広まった「AC(アダルトチルドレン)」という言葉をよく聞きました。

信田 本来の意味は、“アルコール依存症の親のもとで育った人”のことですが、言葉が広まる過程で“親子関係などの成育環境が大人になってからの生きづらさにがる”という解釈が定着していきました。毒親問題を訴えるのは圧倒的に女性なのですが、ACは男性が多かった印象です。

さかもと たとえばどんな例があるのですか?

信田 さかもとさんの家庭のように、男尊女卑の父親から「跡とり」としての期待をかけられた息子が、ぎちぎちに勉強させられ、ちょっとでも規定のレールを外れると「人間のクズだ」と責められてしまう。

大塚 しかも「お前のためだ」と言われると親を恨めないし、感謝まで強いられ、逃げ出すこともできない。それで自分、または親を攻撃してしまう例も多いですよね。2019年6月に元農水省事務次官の父親が、引きこもりで家庭内暴力もひどかった40代の長男に「殺すぞ」と脅され、逆に刺殺してしまったという痛ましい事件がありました。