「家族が閉じていて、ほかに比較対象がないことも問題なのでしょうね。そもそも自分の家族って相対化するのが難しいものだから。」(大塚さん)

 

世間体を第一に考える日本の家族

信田 家族の問題は家庭内で解決しなければいけない、という価値観に縛られると、外に相談もできず、どんどん身動きがとれなくなる。恐ろしいことですが、家族という小さな世界では親と子、そしてきょうだいもまた、教祖と信者の関係になってしまうんです。

さかもと ああいった事件が起きるたびに、「どうすればよかったのか」と真剣に考えてしまいます。

大塚 家族が閉じていて、ほかに比較対象がないことも問題なのでしょうね。そもそも自分の家族って相対化するのが難しいものだから。

信田 最近は親戚づきあいも薄くなっていますよね。昔は、おじさんおばさんなど少し距離のある他者から、「それは親(または、きょうだい)がおかしい」と指摘してもらうことが家族間のガス抜きになっていた部分もあったけれど。

さかもと 自分の家族と違う価値観と出会わないと、追い詰められた人は壊れてしまいます。私は親から「絵描きになりたいなんて頭がおかしい」と言われ続けて、心身ともに疲弊してしまった。弟もそうだったと思います。やがて私は拒食症になって死にかけましたが、友だちに「どうせ死ぬんだから、生活のことなんか忘れて、死ぬ気で漫画を描いてみたら?」と言われて初めて前向きになれたんです。

大塚 他者の視点は本当に大事ですよね。私に「取材してほしい」と連絡をくれる人や、周りに相談できる人は比較的自分の状況を客観視できているから、多少は元気がある。でもその背後には、他者の視点を持てず、声すら上げられないたくさんの人がいるのだろうといつも感じています。そもそもご両親がさかもとさんのことを「おかしい」と言うのも、ほかに「正しい」生き方があると思い込んでいるからですよね。

さかもと 日本って、家族の一員を判定する基準が「愛」じゃなくて「世間体」の家が多い。つまり物差しが自分の中じゃなくて外にある。

信田 まさに私もそのことについて、どうしたらいいのかと考え続けています。子育て中の親が何を一番恐れるかといえば、「“ふつう”からこぼれ落ちる」こと。だから、子どもが学校に数日行けないだけでもパニックになるんです。近年は格差社会が進んで、ますます「レールから外れたら、もうおしまい」という恐怖で固まってしまうわけです。

さかもと 小学校や中学校を受験させて、志望校に落ちたらこの世の終わりみたいに嘆いてね。“ふつう”から外れた子は愛せないなんて、そっちのほうが普通じゃないですよ。

大塚 親だけでなく、きょうだいも世間の価値観をふりかざして、いじめてくることがあります。子どもに過酷な受験勉強を強いる「教育虐待」も、言葉として広まってきましたね。

信田 現在の子どもたちもそうですが、40~50代の人にも非常に多いですよ。問題を間違えるたびに親にシャープペンの芯を突き立てられた跡が手の甲に残っている人とか……。私はグループカウンセリングで何度も出会っています。