「親研究」のすすめ

信田 もちろん家族と離れるには葛藤もあるでしょう。でも生きている限り、葛藤はゼロにはなりませんよ。カウンセリングの手法にスケーリングというのがあって、頭の中に物差しをつくって「今日の私は家族に対する罪悪感が6割、自分の幸せが4割。少し調子が悪いかも」「今日は罪悪感が2割しかないから、元気だわ」と数値化して判断するんです。

幸せ度のスケーリングを上げるために、たとえば本を読んだり、話の通じる仲間と会ったりすることが自分には必要だといったことを発見できたりしますね。数で表すことで自分を客観的にとらえられ、相対化できますよ。気持ちが楽になるために活用してみるといいですね。

さかもと 頭の中を相対化してみるんですね。やってみます!

信田 もう一つが、親を相対化してみること。たかが自分の親なのですから、不必要に恐れたり、かわいそうに思ったりしないほうがいい。ひとりの人間として、「なぜあの人はこんな結婚をして、私やきょうだいをあんなふうに育て、そして今こういう態度なのか」を徹底的に「研究」するんです。誰かに聞いてもらい発表するような気持ちで、わかりやすく。そうすると、「なんだ、たかだかそんな背景だったのか」と、意外とあきらめがついたりするんです。

大塚 「親研究」ですか。なるほど。

信田 それを一度やっておくと、自分が母親として娘や息子に同じことをしないための戒めにもなります。『婦人公論』の読者世代は、まさに自分が「ママって毒母だよね」とか言われる立場でしょうから。(笑)

発売中の「婦人公論」4月13日号では信田さよ子さんが写真家の植本一子さんと対談、実母との葛藤を抱える悩みに答えている

大塚 スッパリ縁が切れない場合、たとえば高齢の親なら「先に死んでしまうはず」と考え、それまで我慢しようという人もいますよね。

信田 死んだら死んだで、悩む人は多いんですよ。一筋縄ではいかないのが親子の難しさ。その点、きょうだいは生きているうちから、割とスパッと縁が切れるんですけどね。

さかもと うちの親は丈夫だから、難病の私のほうが先に死んじゃうかも(笑)。それまでに、少しでも考えを変えてくれたら嬉しいけど。

信田 つらい思いをしたのに、まだご両親を思いやれるって、さかもとさんは優しいんですね。

さかもと えー、嬉しい! ぜひ両親に聞かせてやってくださいよ。

大塚 私も取材していて感じますけれど、みなさんは家族のことを許しすぎ。もっと怒っていいし、許さないままでもいいのにって思います。でも、家族のよい思い出が少しでもあると、余計あきらめがつかなくなってしまうんですよね。

信田 その優しさが、ご両親にも通じるといいのに。本当に家族ってやっかいなものです。