人はその立場にならないと、できないことがある
工藤 同感です。僕は組織に属して働いているとき、常に1つか2つ上の階層のイメージで仕事をしていました。自分が学年主任だったら? 教頭だったら? 校長だったら? 想像すると、2段階上の仕事はある程度、見えます。
でも実際に校長になったら、今度は教育委員会や教育長の仕事の一部が見えてくる。それは想像するだけでは見えない世界で、その立場になってみないと、さらに上の仕事は見えてこない。組織に属して働いている場合、そんなふうに「リーダー的な役職でなければできない仕事」があります。
僕は40代の頃、教育委員会にいましたが、最初は自分の上司である課長がどんな仕事をしているか分かりませんでした。そのうち、課長の仕事がそれなりに分かってきます。でも、実際に課長になってみると課長の仕事はもちろん、区長や教育長の仕事まで見えてくるわけです。
その仕組みがわかってくると、できる仕事が大きく広がる。例えば、課長でも区長と交渉できるようになります。本来は教育長の役目ですが、場面に応じて2段階くらい役職を飛び越えて、対等に区長とやりとりできる。一教員の頃はできなかったことです。
リーダー的な立場に立つことで初めて見えてくる景色があるし、その立場を背負いながら人付き合いを重ねることでついてくる実力があります。僕は、誰もがリーダーにならなければいけないとは思いません。それでも、組織や社会に働きかけたい思いが少しでもあるなら、ぜひ一度、飛び込んでみてほしいです。
岡田 本当にそうですね。
工藤 代表監督を二度経験されて、日本サッカー協会の副会長もなさっている岡田さんの考え方、取り組みに影響されて日本のサッカーは確実に変化していったと思います。「人はその立場にならないと、できないことがある」というのは、経験を通して僕自身も感じていることです。
岡田 たしかに、僕が日本代表の監督でW杯に出ていなければ、首相官邸に招かれて多くの要人と言われる人たちと出会うことはなかったし、起業もしていなかっただろうし、スタジアム建設の出資者が集まることもなかったのではないかと思います。
