意外かもしれないが
ストレッチャーに乗せられた祖母は母を見るなり「会いたかったよ〜」と手を差し出してきたそうである。
今回に限らず、祖母は認知症になってから、母や私の顔を見ると手を握ってほしそうに布団の端から手を差し出すようになった。起き上がっている時はぼんやりしていても元気な様子であるが、骨折した時とか、ベッドに横になっている時とかはどうも弱気になるらしい。認知症を発症する前の祖母からは考えられない弱りようである。
あれだけ人には「人間は強くなきゃダメだ、私を見てごらん、一人で借金を返してこの家を建てたんだからね」と嘯(うそぶ)いていたのに、その実むき出しの祖母は臆病で寂しがり屋の幼女のような人だった。
母は祖母の手を握り返した。血行が悪く普段は冷たい祖母の手が熱かったと言っていた。母は覚悟を決めきれない顔をしていた。
祖母は1週間ほどで退院してきた。退院する前にはすでに元気を取り戻して、「うなぎが食べたい」などと言っていたようである。祖母は令和の酷暑を1週間で克服した。











