女性学は女の情念がつくりだした学問です

WAN代表の上野さんは「私はなんでフェミニストになったかって、恨みつらみからですよ。あの時あの場であのヤローが私に何を言ったかしたか、これが私の出発点です。怒りと運動と女性学の研究はつながっています」と明かします。

「高学歴でなにが悪いのって言いたくなることもあった。ね、井上さんどう思います」と茶目っ気たっぷりに、和光大学名誉教授の井上さんに振ると、井上さんもすぐに次のように応じます。

「大学院を受験する時に、結婚と大学院進学と両方したいんだって、周囲の反対を押し切って入っているものですから、意地でやるしかないところがあって。高学歴を続けるのはとても大変でした。研究者になっていく間に、個人的な恨みつらみもあるし、いろんな差別の経験をしたわけです。それが研究の中身にも影響しています。問題意識というか、それまでの研究とは違うものをやりたいっていうことはありました」。

それを受けて、「女性学は女の情念がつくりだした学問」との上野さんの考えに井上さんも同意し、「女性学をウーマン・リブの学問版と位置付けている」と述べました。

続いて、ジェンダーの視点から家族法務を専門とする行政書士の渡邉愛里さん(29歳)が、女の情念、思いを言葉にできる「自分語りの場」について話しました。上野さんの、「今、女の子たちには安全に思いの丈を話せる場所ってないのでしょうか」との問いかけに渡邉さんは、「リブのお姉さま方がやってきた、腹の底から思っていることを語り合う場っていうのは、今は難しいなって思います。そういう場がないからこそ、たとえば私の母は、無料で一番熱心に話を聞いてくれる娘である私にグチり続けてきた」と告白。上野さんが「母親の感情のゴミ捨て場の役、ご苦労様でした」と受け、会場には笑いが。

「同じような経験をした娘たちはたくさんいるはず。その娘たちの語る場があるといいですね」という上野さんに一同うなずきます。「フェミニズムの初期の頃は、女の集まりに男が来たら追い出した。安全な場、本音を語れる場を確保しながら、少しずつ力をつけていた」と自身が取り組んできたことを話して若い世代を鼓舞。

上野さんは最後に、井上さんの「明日のために今日を我慢するのではなくて、明日の解放のために今日嫌なことは嫌って言おう」という言葉を紹介し、「こんなかっこいいせりふを井上さんが若い時に言っていたと今日初めて再発見しました。すごいねぇ、上野が言いそうなことをちゃんと言ってらした。井上さんと私が、知らない間に思いを共有していたことを踏まえると、世代を超えてフェミニズムのDNAが伝わってきたと言えるでしょうか。『私はフェミニストではないですが……』と言わなくても、堂々と『フェミニストです』と口に出して良い時代になってきたなって気がします」と述べ、結びとしました。

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公開講演会「ミニコミに学ぶ『婦人問題懇話会(会報)』編・女性解放をめざした先輩たちと出会う-フェミニズムを引き継ぐために
主催:認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科
共催:立教大学ジェンダーフォーラム
後援:豊島区
協力:日本婦人問題懇話会同窓会
2019年10月19日 於 立教大学
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◆ブックトークの動画は以下のWANサイトでご覧になれます。
https://wan.or.jp/article/show/8737