新人の本配属は1人だけ

そんなある日、新人の配属を含めた人事の噂が流れ、どうやら企画営業部は、仮配属の新人を1人だけ本配属にするらしいということでした。このあたりから、矢野さんはHさんの言動にモヤモヤすることがさらに多くなってきたということです。

たとえば、懇親会の場で、矢野さんが上司から褒められた企画が話題になったことがありました。その企画は、大学時代から考えていたアイディアを発展させたもので、褒められたときは涙が出るほど嬉しかったそうです。しかし、この話題が出ているのを少し離れた席から見ていたHさんが、酔った勢いに任せてか、「あの企画、実は最初に思いついていたのは私なんですよ……」などと近くの席の社員に言っているのが聞こえました。

たしかに、この企画資料を矢野さんが作成していたときに、Hさんにどんな企画を考えているのか聞かれて説明したことがありました。そのとき彼女が、「これ、私も前に考えたことがある」などと言っていたのを覚えています。しかし、その企画は統計学に詳しくなければ思いつかないような斬新なものであり、Hさんに統計学を駆使するようなスキルはありません。

矢野さんは、酔っていたとはいえそのようなことを言うHさんに対して、違和感を抱いたのを覚えています。けれども、Hさんが矢野さんをチラチラ見ながら近くの社員に話しているのを見たとき、「絶対に私よりHさんの話を信じるだろうな」と思ってしまい、聞こえていない振りをするしかありませんでした。