タタタン、タタタン

「なんだあの人?」

康介さんは呆気に取られてしまった。

同様に、目をぱちくりさせる友人もいた。

けれど一緒にいた者のうち何人かは、

「太鼓の音はするけど、これ、どこから聞こえてるの?」
「おまえら、さっきからなに言ってるんだ? そんな音なんて聞こえないよ」

と困惑している様子である。

ひょっとしてこれは、と康介さんは思った。

人によっては、見えも聞こえもしないモノなのだろうか?

そう考えるとゾッとした。

猿面の人物は相変わらず、タタタン、タタタン、と同じリズムで太鼓を叩き続けている。

よく見れば、ジャングルジムの下のほうに犬用のリードみたいなものが結びつけてあり、その先にはこれもまた真っ赤な革製の首輪がつながって、地に落ちていた。

『こどもの頃のこわい話 きみのわるい話』(著:蛙坂須美/竹書房)

猿なし猿まわし。

そんな言葉を当時の康介さんが思い浮かべたかどうかは定かでないが、気味が悪いと感じたのは事実だ。

おまけに、その太鼓の音を聞いていると、不思議と不安な気持ちになってくる。

心拍数が増え、腋の下から汗がにじむ。

腰から下の力が抜けて、体温が奪われていくようだ。

「……あれ、ちょっとダメなやつかも。もう行こうぜ」

友人たちの返事も待たず、康介さんは公園の出口へと急いだ。

公園を出ても、太鼓の音はまだ聞こえる。

耐えきれずに駆け出した。

背後から友人たちの呼ぶ声がする。

それを無視して、無我夢中で走った。

慣れ親しんだ団地の前まで来て、康介さんはやっと人心地がついた。

太鼓の音はもうしない。

頭から水を浴びたように、ぐっしょり汗をかいていた。