イラスト◎大塚砂織

現金14万円を配布! 観光都市の経済政策 中国発

2006年にカジノ収入においてアメリカ・ラスベガスを抜き、世界最大のカジノ都市になったマカオ。次々と完成する巨大リゾートの後押しでどんどん成長を続け、19年の売り上げは4兆円に上った。

カジノによる税収は大きな財源の一つ。マカオ政府はこの税収を還元するため、13年連続で市民への現金配布を実施している。今年は永住権を持つ人へ約14万円、居留権を持つ人へは約8万円が銀行振込か小切手で給付された。夢のような話に思われるだろうが、こうした現金配布には、市民のガス抜きという一面もある。実際に給付金をストレス解消に使う人は多く、テレビのインタビューでは、旅行へ行くと答えた人が最多だった。

マカオの人口密度は世界最高レベルで、1㎢あたり2万人を超える超過密状態。ラッシュアワーには、唯一の市民の足であるバスが満員で乗れず、苦い思いで何本も見送ることも。さらに、アジア有数の観光都市でもあるマカオを19年に訪れた観光客は約4000万人。人口密度が高いうえに観光客も多く、住民はストレスフルな生活を強いられている。週末は歩くことさえままならないほど混雑する観光スポットや、タクシー待ちの長蛇の列。春節や国慶節といった中国の連休には、1週間で100万人ほどの観光客が押し寄せる。だから給付金を使って、マカオ以外の国へ出かけたいという人が多いのだ。

しかし、今年は事情が異なる。新型コロナウイルスの流行により、多くの国の旅行社がマカオ行きのツアーを中止。2月は税収の柱であるカジノ全41ヵ所が半月間閉鎖されたため、売り上げは前年同月のわずか1割に。街からは観光客の姿が消え、観光地で働く人は仕事がなくなり、市民の相当数が失業状態となった。

そこで政府は、毎年7~9月に行われる現金配布の3ヵ月前倒しや、マカオ内で3ヵ月使える約4万円分の電子商品券の配布を決定した。マカオ内での消費を増やして、経済を回そうという狙いだ。カジノで得た潤沢な資金をうまく利用し、市民のストレスや緊急事態に対応するマカオ政府。今回の苦境をどう乗り越えるか、ホー・ヤッシン行政長官に市民は期待を寄せている。(マカオ特別行政区在住・越宮椿)