夢を後押ししてくれた

父は、子どものやりたいことや夢は応援してくれる人。僕はすごく生き物が好きで、川の生物を何十種類も捕まえてきては飼っていました。普通の家庭だったら、「やめなさい」と言われそうですが、父は許してくれました。父がレールを敷いて「ああしたほうがいい」と指示するのではなく、子どもたちの好きなようにやらせてくれる。芸能の道に進むことを止められることはなかったです。ただ、「生半可な覚悟で務まる世界じゃない」ということは伝えてくれたので、心配していたんだと思います。

<父親の藤岡弘、さんは、俳優であり武道家。柔道や空手など多くの武道に精通する。1971年、『仮面ライダー』でブレイクし、以降、数々の映画やドラマに参加。時代劇の出演も多い>

藤岡真威人さん
藤岡真威人さん

父からは俳優の仕事について、いろいろ聞いていてきましたが、自分が芸能の世界に入って初めて理解できたことがたくさんありました。

小さい頃に父の撮影現場に見学に行ったときのことです。家でのリラックスした姿とは雰囲気が全く違う様子に驚きました。カメラの前に立った父の、内側から発せられるエネルギーに「なんだこれ」と思ったのを覚えています。「ぼくのお父さん」じゃなくて、みんなが知っている「藤岡弘、」がそこにいた。当時は、父がオンオフに差が出る理由がよくわからなかったんです。

でも、自分が芸能界に入って、カメラの前に立った時、内面から「俳優としての藤岡真威人」になっていないとダメだと感じました。表情や言葉、ニュアンスがすべてカメラを通すと伝わってしまう。だから、小さい頃の僕が撮影現場で見た「藤岡弘、」は俳優としてのスイッチが入った状態の父だったんです。仕事でもプライベートでも父が軸としている考えや生き方自体は変わらないのですが、俳優「藤岡弘、」は雰囲気が厳しくなって、言葉が研ぎ澄まされて、より本当のことしか言わなくなるように感じています。

僕は父と同じ、オンオフを切り替えるタイプだったので、仕事とプライベートのスイッチの切り替えの大変さがわかりました。仕事でずっと気を張っているから、家に帰るとエネルギーが切れてしまう瞬間がある。表に出る人間の大変さが芸能の仕事を始めてわかりました。