概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、調査研究本部の伊藤徹也主任研究員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

クマが市街地に出没したり、人間を襲ったりする被害が相次いでいる。地元の猟友会や自治体を支援するため、秋田県に自衛隊が派遣された。国防を本来の任務とする自衛隊の役割はどこまで広がるのか。笹川博義・自民党クマ被害緊急対策プロジェクトチーム座長、河野克俊・元統合幕僚長を迎えた昨年11月6日の放送を踏まえて、出演した伊藤俊行編集委員に聞いた。

最悪クマ被害自衛隊の役割

100条に基づく派遣

「自衛隊には、クマの駆除ではなく、後方支援の要請があった。銃器を扱うことはできても、クマの駆除に関しては、猟友会に経験と蓄積がある。現状は猟友会に非常に負荷がかかっており、支援してもらう」=笹川氏

「自衛隊は今回、自衛隊法100条に基づく輸送事業に従事する。分担をはっきりさせることで、猟友会は駆除に集中できて、負担を軽減できる。この緊張が高まっている状況では、自衛隊の派遣は当然だ」=河野氏

伊藤徹今年度、クマによる人身被害が深刻化しています。とりわけ、襲われて亡くなる人は、昨年11月20日時点で13人と過去最多を大幅に更新しています。番組にコメントを寄せてもらった岩手大の山内貴義(きよし)准教授によると、餌となるドングリやブナの実が大凶作で、冬眠を前におなかをすかせたクマが市街地に下りていると言います。クマは市街地においしい餌があることを学習する一方、人間との接触は嫌がり、自分の身の危険を感じたクマは、人間を襲ってくるということです。

難局 少数野党で野党と協力の形は©️日本テレビ
クマによる死亡者数©️日本テレビ

伊藤俊番組では、そうしたクマの出没が急増している背景を踏まえた上で、どのようにクマの被害を防ぐことができるのかについて考えました。なかでも、自衛隊の活動に焦点を当てました。亡くなる人は東北などに集中しており、地元だけでは手が回らなくなっています。陸上自衛隊は昨年11月、秋田県の要望を受けて、クマ対応にあたる猟友会や自治体を支援する活動を行いました。自衛隊法100条に基づく輸送事業として派遣され、①クマを捕獲する箱わなの運搬②見回りをする猟友会のメンバーらの輸送③駆除したクマの運搬や埋設のための掘削④情報収集――に携わりました。

難局 少数野党で野党と協力の形は©️日本テレビ
ツキノワグマ©️日本テレビ

伊藤徹自衛隊が出動できる主な要件には、①他国から侵略を受けた時の防衛出動②国内の暴動などに対する治安出動③大規模災害が起きた時の災害派遣――があります。防衛出動と治安出動は武器の使用が認められており、災害派遣は、救援活動のために必要なら、最小限の火器や弾薬を携行することができます。今回は、これらに当てはまらず、箱わなの運搬などの後方支援を行いました。地元もクマの駆除は要請しませんでした。自衛隊の活用をどう考えるべきでしょうか。

難局 少数野党で野党と協力の形は©️日本テレビ
自衛隊 クマ対策 役割分担©️日本テレビ

伊藤俊小泉防衛相は、自衛隊の本来任務は国防としながらも、今回の事態の特異性を考えて派遣を判断したと述べました。河野さんがおっしゃったように、暮らしが脅かされる局面で自衛隊が出て活動することは、国民に大きな安心感を与えます。番組にも視聴者から反響がありました。

難局 少数野党で野党と協力の形は©️日本テレビ
緊急銃猟の条件©️日本テレビ

過去にも自衛隊は、2010年度から2014年度にかけて、北海道の依頼を受けて、エゾシカの捕獲に加わったことがあります。「白糠(しらぬか)の夜明け作戦」と呼ばれた活動で、地元ハンターが駆除したエゾシカを雪上車に載せて輸送しました。1960年頃にも、北海道の近海漁業を荒らし回っていたトドの退治に派遣されたことがあります。番組では、当時の活動を伝える貴重な映像などを紹介しました。

一方で、ある陸自幹部OBの方によると、自衛隊は年間の訓練予定を綿密に立てていると言います。訓練なくして、部隊の練度は上がりません。自衛隊への支援要請は、練度の維持という点で、必ずしもプラスには働かないとの本音が漏れました。箱わなを運搬することが、自衛隊の強みを生かす活動なのかどうかというわけです。

もちろん、自衛隊の本来任務に支障のないように、部隊の運用は行っているはずです。今回の派遣も、猟友会への支援などで重要な役割を果たしたと思います。ただ、国民の中に「何でもかんでも自衛隊」という雰囲気がないのかどうか。そこは、私たちも少し気をつけないといけません。