日本で一番自由のない方なのかもしれない

工藤 皇室に対してはいろんな思いがあっても、美智子皇后を嫌いな日本人は、まずいない。それはまさに、皇后さまご自身の、ご結婚以来55年の努力の賜物にほかならない、と私は思うのです。

キーン それは間違いないでしょう。

工藤 ご存じのように、今皇室はさまざまな問題に直面していますけど、「外からの視点」もお持ちのキーン先生からみて、日本の皇室はどんなふうに映るのでしょう?

キーン 私は第二次大戦中、アメリカ海軍の情報士官として勤務していました。どこにも派閥争いはあるものです。だから陸軍は大嫌い。(笑)

工藤 日本軍と同じなんですね。

キーン ええ、私たちの一番の敵はマッカーサー陸軍元帥です(笑)。威張っていたし、偏見を持っていたし。でも彼は、一ついいことをしました。終戦時に天皇の裁判を避けたことです。もし裁判をしていたら、また日本で新しい戦争が始まっていたでしょう。もっともっと、ひどいことになっていたはずです。

工藤 おっしゃる通りですね。

キーン 人間は悪かったけれど、頭は悪くなかった(笑)。天皇自身は、「責任は自分にあるから罰してほしい」と言ったのですね。マッカーサーは、そこに感心もした。ただ昭和天皇は、一般の人々とどう向き合ったらいいのかが、わかりませんでした。戦後のニュース映画をみると、国民の前で戸惑っているのがわかります。そういう意味では、彼は「現代の天皇」ではなかった。さっきも申しあげたように、それが今上天皇の時代になって変わり、皇室は国民にとって近い存在になりました。

工藤 日本の皇室は、よく英国王室と比較されたりします。

キーン 王室には素晴らしい人もいるのだけれど……。

工藤 ああ、困った人もいる。(笑)

キーン エリザベス女王も、ご苦労なさっているのでは(笑)。日本の皇室は、みんな教養のレベルがとても高いのです。

工藤 英国の場合は、クイーン・エリザベスが非の打ちどころのない偉大な方だから、余計に周囲が目立つのかもしれません。

キーン ただ、皇室を大切にするのはいいのだけれど、ちょっと極端なところがありますね。皇后陛下に本を差し上げようと思ったら、ダメでした。直接何かを受け取ることは、許されない。

工藤 そうですね。

キーン 私は知りませんでした。ヨーロッパでは考えられないことです。あちらでは、王族が街に買い物に出て、「この宝石きれいだからちょうだい」なんていうのは、普通のこと。

工藤 「この棚全部」とか。(笑)

キーン いろんな制約が多いと感じます。天皇というのは、日本で一番自由のない人ではないでしょうか。分刻みのスケジュールで、変な言い方ですけれど、あのご高齢で、行けと言われればどこにでも行く。

工藤 そのお姿が見えるから、国民に尊敬されるのでしょうね。