三島由紀夫は美智子さまとお見合いをしていた

工藤 私は今、美智子皇后の伝記を書こうと思って、いろいろ調べています。実は皇太子殿下との婚約発表の9ヵ月前に、三島由紀夫は歌舞伎座で美智子さまとお見合いをしたと、さまざまな人に語っています。三島とお付き合いがあった方も、今は本当に少なくなっていて、すごく親しかったのはキーン先生くらいじゃないでしょうか。

キーン 彼とは17〜18年ほど、友達として付き合いました。

工藤 そのお見合いで、三島は美智子さまのことを、「こんなに素晴らしい女性はいない」と、本当に好きになる。ところが、お付き合いを断られてしまい、大いに傷ついた——と語っていますね。おかしいのは、皇太子夫妻のご成婚パレードで、馬車に石を投げた少年がいて……。

キーン ああ、いましたね。

工藤 三島は彼について、大変、好意的な文章をしたためているんです。「僕には気持ちがわかる」って。(笑)

キーン ははは、なるほど。でも親しくいろんなことを語り合いましたが、そんな話を私の前でしたことは、一度もありませんでしたよ。

工藤 『仮面の告白』という小説があるくらいで、いろんな顔を使い分けていて、おそらく敬愛する先生にはそういう部分は見せたくなかったのではありませんか。

キーン 最終章を書き上げて割腹自殺する『豊饒の海』4部作こそ、彼が描きたかった世界なのでしょう。なるべく私小説にならないように、抑えて、抑えて……でも第1部に出てくる、皇族と婚約する綾倉聡子こそ、美智子妃です。

工藤 たしかに「ねむの木」を登場させるなど、はっとするほどのシーンがあります。好きでたまらなかった女性像を投影させたのですね。美智子さまは、大作家にとってそれほどに魅力的な女性だった。キーン先生は、直接お会いしてどんなイメージを抱きましたか?

キーン 美しくおしとやかで、とてもきれいな英語をお話しになる。まさに「貴婦人」と呼ぶにふさわしい方ですね。昨年の「日本サマランカ大学友の会」の創立15周年の会にいらっしゃったのですが、長い長いスピーチがあり、僕はあくびをかみ殺すのに必死でした(笑)。ところが美智子さまはすっと立って、口元に微笑みを浮かべたまま、微動だにせず。

工藤 つい最近まで、ハイヒールを履いていらっしゃいました。私もすごいなと感じたことがあるのですが、終戦直後に来た兵隊と結婚して渡米した、いわゆる戦争花嫁の人たちが作っている会があります。彼女たちは必ずしもみんなが幸せになれたわけではなく、大変な苦労をして、なおかつ日本に帰れなかった方も多い。美智子皇后はその代表の人たちを呼んで話を聞き、ポケットマネーから金一封をお渡しになったのですよ。「戦争花嫁」なんて、知っている日本人はもう少数派ではないでしょうか。でも苦しんだ人たちのことを忘れずに、きちんと心を配っていらっしゃるわけです。

キーン 素晴らしいことですね。

雑誌『中央公論』での対談の一コマ。キーンさんは三島由紀夫と仕事やプライベートでの親交があった