時代の変化に動じない「心の柱」がある大切さ
キーン 日本の国民に「今の皇室」を強く印象づけたのは、東北の被災地で皇后陛下が膝をついて被災者とお話しになった、あのシーンではないかと思います。そこには、苦しんでいる人たちに対する心からの同情、慈しみの心があふれていました。そんな皇室を抱く日本は、やっぱり恵まれた国だと思います。
工藤 そのことを忘れないようにしなければいけませんね。
キーン アメリカの大統領は、就任して2年くらいは、信念に基づいて自分のやりたいことをやります。ところが、その後は次の選挙のことを気にして、その準備を最優先するようになる。日本の民主主義も素晴らしいと思いますが、たとえば選挙のときには「憲法を変えます」とか「原発を造ります」とかは小さな字で書いておいて、勝ったら堂々とやる、というところがあります。為政者が、民主主義の仕組みを状況に合わせて上手に使うわけですね。
工藤 耳が痛いです。
キーン ですから、一方に天皇のような、その時々の世の中の変化に動じない存在があるというのは、とても意味のあることではないでしょうか。もちろん皇室は政治的な存在ではありませんが、ずっと動かない精神的な柱があるのは、国にとってとてもいいことだと思うのです。
工藤 亡くなった高松宮さまは、「皇室は権力ではなく、権威」とおっしゃっていました。まさしくそういうことですね。時の権力と結びつかないのが、日本の皇室です。
キーン 「権力でなく権威」。それはいい言葉ですね。
工藤 おっしゃるように、「動かない」「変わらない」のが、皇室の真価でもあると思うのですよ。今の天皇皇后がいろいろと新しいものを取り入れ、国民との距離を縮め、皇室外交に尽力した結果、国民に支持される皇室を作り上げられたのは確かです。同時に私が一番感謝しているのは、いろんな祭祀だとか和歌だとか、あるいは皇后さまが続けていらっしゃるご親蚕だとか、代々引き継がれてきた伝統をきっちり守り、継続してくださっていることなのです。
キーン それも大切なことですね。
工藤 ただ、これからのことを考えると、その歴史、伝統が、ずっと受け継がれていかれるのか、「動かない」でいてもらえるのかどうか、正直、心配にもなるのです。
キーン あらゆることが難しいのです。じゃあ英国の王室の将来に心配がないかといえば、そんなことはないでしょう。
工藤 ああ、それは確かにそうですね。みんなそれぞれに問題を抱えつつ、悩みつつ……。
キーン 私は、両陛下は天皇と皇后である前に、最高の夫婦だと思います。いろんなしぐさにお互いへの愛情を感じます。そこがまた、国民に愛される。あとは周囲の人たちが、そういう姿から何を学ぶか、ということなのかもしれません。
工藤 私は先生のご労作『明治天皇』に大変感銘を受けて、いつかぜひ詳しくお話をうかがいたいと思っていました。個人的には、皇室に関する次のご著書を期待しています。