『戦う姫、働く少女』著:河野真太郎

 

#MeToo運動が増刷のきっかけに

マンガやゲームに登場する戦士めいた装備の女の子が鏡をのぞき込む、とそこに映るのは出勤前の身支度チェックをしているかのような白シャツまとめ髪の女子……想像力をかきたてるカバー絵だ。頁を開けば、映画『スター・ウォーズ』のヒロインについてや『アナと雪の女王』の話が始まり、読みやすくて入りやすい。だが、本書は実はバリバリの学術書。なのに2017年の刊行以来版を重ね、学術書としては異例の7000部まで伸びているのである。

論じられるのは、ディズニーやジブリを中心とするアニメ、映画やドラマなどポピュラーカルチャーに描かれるさまざまな少女や女性が、どんな幸せを求め、どう行動するか。そして、そこに現実を生きている私たちの願望や労働、さらに社会のあり方がどう反映されているのか。

刊行当時から話題になっていた本書だが、#MeToo運動をきっかけにジェンダーへの意識が高まり、家事や育児のワンオペ状態の困難がますます顕在化してきた今、自分自身のことを改めて考える手がかりにもなるだろう。今年になって6、7刷と相次いだのもうなずける。フェミニズムの変遷も新自由主義の問題も、抽象的な話題ではなく私たちのリアルに直結しているのだ。

テレビでジブリ映画が放送された後にも売れ行きが伸びるそうで、それもわかる。『魔女の宅急便』や、ジブリではないが細田守監督のアニメ映画『おおかみこどもの雨と雪』など、社会での経験を経てから見直すと何だか引っかかって、もう一度考えたくなる作品はある。ヒロインはなぜその選択をし、なぜそこで微笑まなければならなかったのか。物語をただ楽しむだけでない、想像し考えることが未来を切り拓くのだと本書は思わせてくれる。

『戦う姫、働く少女』
著◎河野真太郎
堀之内出版 1800円