先手となって腰掛銀を選択すれば
この原稿を書いている2020年2月の段階で藤井七段は、朝日杯将棋オープン戦の三連覇へ向けて好スタートを切っていた。私が解説を務めた本戦トーナメントの第二局でも、彼の資質の高さにはあらためて驚かされた。
菅井竜也七段(当時、現在は八段)、斎藤慎太郎七段(当時、現在は八段)に連勝して、準決勝へ駒を進めたのだ。菅井七段は2017年に王位、斎藤七段は2018年に王座に就いているタイトル経験者である。現在の将棋界では最上位にいる棋士の一人、ということだ。そうした相手にひるむことなく見事な将棋で勝ったのだ。
とくに注目したいのは斎藤七段を相手にした二回戦で見せた「角換わりの腰掛銀(こしかけぎん)」である。現在の将棋界の最新形、流行形といえるものだが、途中の選択肢が多く、厳しい駆け引きが展開されやすい。
斎藤七段もよく使う戦法であり、どちらが有利だとは見極めにくい攻防が続いた。そのうえでしっかりと勝ちきってみせたのだ。
腰掛銀そのものは私も若い頃からよく指してきた。しかし最近の腰掛銀では、私たちの時代には考えにくかった斬新な手順が見られるようになっている。それだけにうまく使いこなすのが難しい。
藤井七段はこの戦法をよく研究しているのがわかった。すでに得意戦法にしているといってよく、藤井七段が先手となって腰掛銀を選択すれば(斎藤七段との対局でも藤井七段が先手だった)、相手とすればかなり厳しい。それだけ自分のものにできている。
藤井七段の長所は、研究を結果に結びつけられていることだ。普通はそれがなかなかできない。十代のうちからこうした結果が出せているのは驚異的である。だからこそ、これからまだまだ伸びていくのは疑いない。