「この段階で藤井七段は17歳だ。その若さで持久戦をいとわないことは、それだけでも特筆に値する」

その若さで持久戦をいとわない

この本戦トーナメントで興味深かった点はそれだけではない。

斎藤七段との二回戦で見せた将棋を陸上にたとえるなら、中距離の1500メートル競走のようなものだといえる。対して、菅井七段を相手にした一回戦では長距離(持久走)の一万メートル競走のような将棋をして勝っていた。

この段階で藤井七段は17歳だ。その若さで持久戦をいとわないことは、それだけでも特筆に値する。中学生棋士としての先輩である私にしても、谷川浩司九段、羽生善治九段、渡辺明三冠にしても、若いうちはどちらかというと短期決戦型になっていた。長い勝負はできるだけ避けようとするものなのに、藤井七段にはそうした意識がないのではないかと思われる。

最後に勝てればそこまでの道筋は問わないとばかりに、短期決戦でも持久戦でも、どちらでもかまわず戦える。

努力だけでは得がたい個性といえる。

 

大学進学をしないことに賛成な理由

藤井七段は最近、将棋に集中したいということから大学進学はしないという意思を示した。これについては私も賛成だ。勉強でいえば、彼がどの科目が好きなのかはわからない。だが、好きな分野があるなら、進学しなくても本などでも学べる。

私は中退ながら早稲田大学に進んでいたが、知識のほとんどは、学校ではなく本から吸収していった。そういうやり方もできるのだから、大学の勉強に時間を取られすぎるより、いまは将棋の研究に邁進したほうがいいと思う。

糸谷哲郎八段は、大阪大学の大学院まで修了して竜王になっている。そんなことができる人はなかなかいない。藤井七段と糸谷八段のどちらのキャパシティが大きいかといった問題ではない。いまの藤井七段がさらに上を目指していくなら、毎日、最低でも3時間は将棋の研究をする必要がある。その時間を確保することを優先して考えてほしいということだ。