『あの日の交換日記』著:辻堂ゆめ

予想をはるかに凌駕する驚きと感動が待っている

「交換日記」とは、我々昭和世代にとっては懐かしい限り。しかしSNSがこれほどまでに浸透している昨今、新鋭の若手ミステリ作家が、なぜに手書きの交換日記を題材にしているのか。素朴な疑問のままページをめくった。

そして読了した今、思いがけない感動に包まれている。再び冒頭のプロローグを嚙みしめ、第一話から細かくちりばめられていた謎、伏線エピソードの数々を確かめずにはいられない。これらすべてが最終章の第七話「夫と妻」の驚くべき真相に繫がっていくこと、その緻密なロジックと温かい言葉選び、時間の流れに気づかされ、さらに深く感じ入ってしまう。

本書は、さまざまな立場の2人が紡ぐ七話の交換日記の物語。ぜひ、みなさんに読んでもらいたいのだが、その内容をどのように紹介したらいいのか。少しでも間違うとネタばれの「匂わせ」になりそうで迷うところ。綿密に構成されているのに、そのことを感じさせないように物語は自然に流れていくからだ。

第一話「入院患者と見舞客」は、重い病気で入院中の少女と「先生」との日記。第二話「教師と児童」のはじまりでは〈先生、聞いて。/私は人殺しになります。/犯罪者になります〉と、ドキリとする告白が綴られる。

それぞれが独立した物語としても楽しめる。ただ、これから読もうとしているあなたに一つアドバイスするなら、疑問を感じてもそのままに第一話から順番通りに読んでほしい、ということだ。日記小説だから噓や裏の裏があるのでは?なんてった読み方をしなくてもいい。そんな知ったかぶりの読者の予想をはるかに凌駕する驚きと感動の最終話が、あなたを静かに待っているはずである。

『あの日の交換日記』
著◎辻堂ゆめ
中央公論新社 1600円