イラスト:星野イクミ
長く生活を共にして、「暗黙の了解」が増えた家族だからこそ、実は密なコミュニケーションが大切です。人生相談の連載を持つ劇作家の鴻上尚史さんが、読者から寄せられた相談に答えます。家族の制止を聞かない父についてのお悩みです。(構成=篠藤ゆり イラスト=星野イクミ)
《 相談3 》

家族の制止聞かず、雀荘通いの父

85歳になる実父が年々頑固になり、困っています。

昨年大病をして今も治療中なのに、新型コロナウイルス感染の危険があるなか、「俺が行かないとメンバーが揃わないから」と言って、「三密」状態の雀荘に毎日のように出かけるのです。

家族が止めても、「老い先短い俺から、唯一の楽しみを奪うのか」「楽しいこともできないくらいなら、感染して死んだっていい」「俺はかからない自信がある」などと聞く耳を持ってくれません。

うまく説得する方法はあるでしょうか

(50歳・パート)

 

《回答(鴻上さん)》

双方に歩み寄ろうとする姿勢がないと、口論にしかなりません

大病もしているお父さんが、なぜ家族に止められても雀荘に行ってしまうのか。「麻雀が楽しいから」以外にも、僕は理由があると思います。85歳にもなると、周りには亡くなっている人も多いですよね。そんななかで麻雀仲間が3人残っているのは、いわば「奇跡」のようなことだと思うんです。生きて一緒に麻雀ができるありがたさを、お父さんも感じているのでは。そのことを頭に置いたうえで、一緒に考えてみましょうか。

この問題は、人生の最晩年をどう過ごしたいか、という終活の問題でもあると思います。自分の生きたいように生きるか、それともできるだけ永らえるようにつらい治療を受け入れるか。

だから、どちらが〈正しい〉〈正しくない〉という、わかりやすい話ではないんです。もしお父さんを家に閉じ込めている間に仲間の誰かが亡くなったら、「あいつと最後の麻雀を一緒にやりたかった」と、一生悔いが残ってしまうでしょう。