「街の銭湯の女湯がガラあきになる」

「忘却とは忘れ去るものなり」と言えば、古関が音楽を担当したNHKラジオドラマ『君の名は』(昭和27年~29年)の名ナレーションである。古関の盟友菊田一夫の原作による「君の名は」は、主人公の氏家真知子と後宮春樹とのすれ違いのラブロマンスが聴きどころで、当時の女性たちを夢中にさせた。

もともとラジオ放送の第1回の台本では「君ひとりの為に」という題名を予定していた。古関によれば、この他にも色々の候補があり、そのうちから選ばれたのだが、それを聞いた作詞家サトウハチローが菊田に変更するように主張したため、「君の名は」になったと言う。

『エール』の風俗考証を務める、刑部芳則日本大学准教授

昭和28年9月に映画化した松竹は、『君の名は』のラジオ放送時間になると「街の銭湯の女湯がガラあきになる」という宣伝文句を作った。その文句に偽りはなく、これ以後「君の名は」は3部作が作られ、そのどれもが大ヒットした(昭和28年度の収入ランキング第1位が第2部、第2位が第1部、同29年度の収入ランキング第1位が第3部)。主題歌「君の名は」もヒットし、これを歌った織井茂子の代表曲となった。

大好評の中、ラジオ放送は最終回を迎える。古関によれば、菊田は真知子が死去した後、春樹が現れるという設定を考えていたが、聴取者から再会を求める投書が殺到したため、両者を会わせることに変えたと言う。

「君の名は」のレコード

その最終回では、病床で生死をさまよう真知子の脳裏に「君の名は」という春樹が連呼する声が甦る。そして真知子が生き返ると、春樹が「真知子さん、僕だよ春樹だよ」と呼びかける。この感動的な場面にはダイナミックな古関の楽曲がムードを盛り上げる。そして映画主題歌「君の名は」の前奏にも使われたテーマ曲が流れて大団円となる。