昭和27年頃。自宅の応接間から庭に出たところのポーチで、古関家全員集合(写真提供:古関裕而の長男・古関正裕さん)
古関夫妻の長男・古関正裕さんの著書『君はるか 古関裕而と金子の恋』集英社インターナショナル

新海誠「君の名は。」の聖地と古関裕而

大ヒットした『君の名は』も、リアルタイムで視聴した世代が少なくなった。まさに「忘却」になろうとしている。現在では「キミノナハ」と言えば、平成28年(2016)公開のアニメ映画『君の名は。』(新海誠監督)を思い浮かべる人の方が多いだろう。タイトルだけでなく、映画が大ヒットした点でも共通している。

だが、古関裕而とはもうひとつ今まで知られていない共通点が存在する。それが筆者の調査で再発見した「飛騨古川小唄」である。「君の名は。」は、男子高生の立花瀧(たちばな・たき)と女子高生の宮水三葉(みやみず・みつは)とが、夢の中で身体が入れ替わるという話から始まる。立花は連絡が途絶えた宮水に会いに行くが、そのモデルとなった場所こそが飛騨古川であった。『君の名は。』の聖地として、飛騨古川駅には全国からファンが集まっている。

その聖地の新民謡「飛騨古川小唄」を、古関はどのような思いで作曲したのだろうか。古関は「飛騨古川小唄」について言説を残していない。だが、作曲を頼まれた時期を考えると、戦後の復興のなかで地元の人たちを活気づけようとの思いで作曲したのだろう。全国各地で文化振興事業としての博覧会や祭典が開かれると、古関には作曲の依頼が舞い込んだ。

飛騨市からの依頼を引き受けたのも、古関の断らない人の良さがあらわれている。同時期に別のところから頼まれて新民謡を作曲したときには、「最近の古関さんは少し仕事をしすぎる。今年(昭和24年)になってからの仕事だけを数えあげても古関さん自身でさえ戸惑うことだろう。つまり、それだけ古関さんの人がいいといいうことになる。いやだといえない人の良さが、つぎからつぎと仕事に追われることになるのだ」と評されている。

そうした性格から誕生したのが「飛騨古川小唄」であった。自ら手がけた「君の名は」と酷似する題名の『君の名は。』というアニメ映画が作られ、しかも飛騨古川がその聖地になるとは、泉下の古関先生も思いもよらなかったろう。飄々と「僕はたくさんの自治体歌、新民謡をつくりましたから、ゆかりのある地域は多いのですよ。またなにか発見したら教えてくださいね」とおっしゃるかもしれないが。