イラスト◎大塚砂織

コロナが変えた食品ロスへの意識

英国で「食品ロス削減」に注目が集まり始めたのはここ数年のこと。この国では1日に1500トンもの食品が廃棄されていて、その約半分は家庭からのものと言われている。

昔からあまり食にこだわらない英国では、台所に立って料理するより、スーパーなどで調理済みの食品を買う家庭が多い。伝統的なフィッシュ・アンド・チップスだけでなく、カレーやピザ、中華料理もテイクアウトで手軽に買える。「食事は買って食べるもの」。そして、買った料理の半分は残して捨ててしまう。街を歩くと、捨てられたテイクアウトの食べ残しを目にすることも多い。

こうした状況を変えるために始まったのが「フード・バンク」という活動。品質に問題はないが市場で流通できない食品を企業や生産者から寄付してもらい、生活困窮者などに配給する運動だ。環境問題に敏感な若者を中心に関心が集まり、今や多くのスーパーの入り口にフード・バンクのボックスが設置され、個人も余った食品などを寄付できるようになっている。さらに、レストランが捨てられるはずの規格外の食品のみを使ったコース料理を提供するなど、活動は広がりを見せていた。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により事態は一変してしまった。スーパーは営業時間を短縮し、客数を制限。店の前には2メートル間隔で長蛇の列ができ、一部の商品は品切れが続いている。食料品の調達が困難になったので寄付をする余裕もなく、フード・バンクの箱は空っぽ。自宅で料理せざるを得なくなった英国人は今、食料品が手に入るありがたさ、そして調理を経て口に入るまでの苦労の連続を知り、食品は気軽に捨てられないと身をもって実感している。

そんななか、「フード・ホッブ」という新たな試みが全国的に広がっている。コロナの影響で卸先がなくなった食品製造業者や生産者から、自治体やボランティアが食品の寄付を受け、公民館などで無料配布する取り組み。生活困窮者はもちろん、スーパーに並ぶことのできない高齢者や勤務明けの医療従事者が立ち寄って食べ物をもらっていく。奇しくもコロナが教えてくれた、食の大切さ。事態が収束しても忘れてはいけない。(ケンブリッジ在住・いそのゆきこ)