岸惠子さん(撮影:山下郁夫)
8月11日に88歳の誕生日を迎えた女優・作家の岸惠子さん。19歳でのデビューから70年近くたった今も、その美しさは健在だ。8月14日、トークショー告知の合同取材会に出席。トークショーは新型コロナウイルスの感染拡大の影響に伴い2021年度に延期となったが、会見の模様から、「私は人生の勝ち組ではない」と語る岸さんの生き方を紹介する―(構成=本誌編集部)

私、自分をめげない人間だと思っているの

88歳になってはじめて公の場に姿を見せた岸恵子さん。米寿と言祝がれる88歳を迎えての決意を問われると「何歳になったからって、決意や目標はありません。私、自分をめげない人間だと思っているの。誰かに頼ったことがない。そんな生き方をしてきましたので、これからもそうするだけ」とキッパリ。

女優として長年にわたり活躍するのみならず、小説『わりなき恋』をはじめ文筆にも才を発揮するが、自身の人生は負け続きだったと言う。転機はフランスでの生活にあった。

映画『君の名は』に出演するなど、人気女優だった岸さんがフランス人の映画監督イヴ・シァンピ氏との結婚のため渡仏したのは1957年、24歳のときのこと。個人的な海外旅行航が禁止されていたなか、「祖国を捨て、二度と帰らない覚悟」で旅立った。そのフランスでの生活では「カルチャーショックなんて簡単な言葉では言い表せないほど非常な強いショック」を受けたという。

「東洋の長いこと鎖国をしていた国に育った私は、ヨーロッパで国境をせめぎあって生きてきた、したたかに強い人たちのなかでは負けてしまうんです」

主張の強いパリの人々の間に、言葉もわからぬままひとり入っていった岸さん。思うように意が通らないことも多かった。今回の会見ではその苦労を語らなかったが、これまでの『婦人公論』のインタビューでは、婚家での苦労やシァンピ監督との離婚、日仏の法律の狭間でひとり娘の日本国籍が得られなかったことなどをつぶさに語っている。