現場を知り抜いた人材としてぜひ育児支援大臣に!
男が子育てした? 笑わせるわね。会社の育児休暇をちょびっともらって、赤ん坊のおむつをかえた程度でしょ?と思ったあなた。違います。著者(男性)のペンネームがふざけていると思ったあなた。それはまあ、そうかもしれない。でもここに描かれている子育ては真剣そのものだ。
著者はいろいろな職業を経て(そのひとつがホスト)、今は文筆の仕事をしている。パートナーは、東京藝術大学を卒業しながらもいきなり方針転換し、医学部受験のための浪人生活に入った女性。出産後、パートナーは重労働と重圧がたたり別居して療養生活に入ったため、子育てはママ抜きになった。突然のワンオペ生活である。
その七転八倒ぶりをこれだけつきはなして書けるのは著者の才能というものだろう。自分はこんなにエライという粘着性の自慢が、まったく感じられない。かわりに「こんなに大切な労働に背を向けている男たちはクソだ! 子育てしにくい環境を放置している政治もクソだ!」という魂の叫びが炸裂している。
徴兵制ならぬ徴父制の導入や、子育て生活三種の神器(洗濯乾燥機、食器洗い機、電動自転車)の無料配布を訴えつつ、育児サバイバルを赤裸々に語る。なにかの有識者会議にいますぐ招集されるべきだ、いやいっそ、現場を知り抜いた人材として育児支援大臣になってほしい。
家事育児の労働を神聖視するのではなく(神聖視は蔑視と表裏一体のものだ)、心の余裕をもつためにはどうラクをすればいいかを追究しているのがこの本の最もいいところ。子どもと過ごす経験は喜びや楽しみであるはずで、子育てがつらいものになったのは、われわれの社会の最大の過ちだ。
『パパいや、めろん 男が子育てしてみつけた17の知恵』
著◎海猫沢めろん
講談社 1200円
著◎海猫沢めろん
講談社 1200円