《オール・ライズ》グレゴリー・ポーター

 

膨大なポジティヴ・エネルギーに包みこまれて

火星探査機“パーセヴェランス”の打ち上げ前のセレモニーで、史上初めて歌を披露したグレゴリー・ポーター。これは、新作《オール・ライズ》に収録された、宇宙旅行をテーマにした〈コンコード〉を聴いたNASAのスタッフが熱望して実現したことだった。

グレゴリーのバリトン・ヴォイスは、深く温かい。前作にあたる《ナット・キング・コール&ミー》でジャズ〜スタンダード・ファンのハートをわしづかみにしたが、本作は彼のもう一つの拠点であるソウル~ゴスペル色が濃厚な作風だ。

ホーン・セクション、クワイア、クラッピングを伴い、広義の愛を歌う。「今作をBLM(Black Lives Matter) 運動の一助にしたい」と、キリスト教的人類愛を謳うグレゴリーの歌は、真摯で優しさに満ちている。

ゴスペル調のエンディング曲〈サンキュー〉は、戦うのではなく今あるものに感謝しようという歌詞。彼が熱唱する時に放つ、膨大なポジティヴ・エネルギーに包みこまれる。

オール・ライズ 
グレゴリー・ポーター
ユニバーサル 2600円

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《ハプニング〜ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード》ジェラルド・クレイトン


「ジャズの聖地」で披露するスタンダードナンバー

21世紀のジャズ界をリードするピアニスト、ジェラルド・クレイトンは、偉大なベーシストである父ジョンを通じて、幼い頃よりジャズの偉人たちと共演してきた。その一人であるクインシー・ジョーンズが、この新作《ハプニング〜ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード》に寄せたライナーノーツに、次のように書いている。

「彼がピアノを弾く時、音楽に全身全霊が込められる。偉大なるヴィレッジ・ヴァンガードのステージを彩る歴史の列に加わるのに、彼よりふさわしいキャッツはいない」

30代のジャズ・ミュージシャンの多くが、ジャンルの拡張とリズムの細分化に新境地を求めるなかにあって、ジェラルドの路線は一貫して温故知新。モダンジャズの言語で、2管クインテットのあり方と新たなハーモニーを模索してきた。

ブルーノートのドン・ウォズ社長に請われて同レーベルに移籍。本作は「ジャズの聖地」と言われる老舗ジャズクラブで、「ハプニングを大事にライヴ・レコーディングしました」(本人談)。通常、自作曲しか演奏しない彼が、このクラブでは店主のリクエストに応えてスタンダードも演奏する。

デューク・エリントンがジョン・コルトレーンのために作曲した〈テイク・ザ・コルトレーン〉は激しく、ミステリアスに。また〈ボディ・アンド・ソウル〉では涙をたたえたピアノが切なく美しい。

ハプニング〜ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード 
ジェラルド・クレイトン
ユニバーサル 2600円

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《ラウンドアゲイン》ジョシュア・レッドマンほか

 

スター・プレイヤー4人が26年ぶりの再会

ジョシュア・レッドマン(サックス)を中心にブラッド・メルドー(ピアノ)、クリスチャン・マクブライド(ベース)、ブライアン・ブレイド(ドラムス)というジャズの第一線を走り続けるスター・プレイヤー4人が、26年ぶりに再会、レコーディングに臨んだ《ラウンドアゲイン》。1990年代初頭のジョシュアのグループ・メンバーであり、94年の《ムード・スウィング》の録音メンバーである。

ジョシュアが「いつか再会レコーディングが実現すると思っていたが、夢は叶うものだね」と語ったが、皆が書き下ろし曲を持ち寄ったレコーディング。まだ若手だった26年前は、「斬新であろう」と努めた彼らだったが、今はスウィングすることを楽しんでいる。ジョシュアが獲得した落ち着きと深みのある音色、メンバーの細部での工夫に、スターという以上のひけらかさない職人芸の美しさを見た。

ラウンドアゲイン 
ジョシュア・レッドマンほか
ワーナー 2500円

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