ベルリンは晴れているか

著◎深緑野分
筑摩書房 1900円

流れに逆らうことの難しさ

第二次世界大戦の連合国軍を舞台にした『戦場のコックたち』が2015年下半期の直木賞候補となり、歴史ミステリーの新しい書き手として注目された著者の書き下ろし長編。18年9月に刊行され、これもまた直木賞候補に。受賞とはならなかったものの、読書好きの間ではきわめて評価が高く、じわじわと息長く支持されて7刷5万3000部まで伸びている。

1945年7月のベルリン。ヒトラーが自死し、ドイツは連合国に降伏したが、ポツダム会談はこれから。まだ戦争を続行している国もあり、4ヵ国による分割統治下で他国の兵士に怯えながら暮らす日々は、戦争の記憶をいたるところにこびりつかせている。17歳のドイツ人少女アウグステはアメリカ軍の兵員食堂で働き、なんとか一人で生きようとしていた。ある夜、戦時中に父母を失った彼女を助けてくれた恩人のクリストフがソ連管理区域内で毒殺されたと知らされる。誰が、なぜそんなことを? ソ連軍とアメリカ軍の思惑が複雑に絡み合う中、アウグステは消息の知れないクリストフの甥を捜すことに。

空襲で壊れた建物、瓦礫だらけの街、暗い森、廃墟となった映画撮影所。力強く鮮烈な描写が遠い時空間を見事なリアリティで浮かびあがらせる。アウグステが出会うキャラクターたちはみな個性的で魅力にあふれ、それぞれ傷を負って疲弊し殺伐としながらも生き延びようとあがく姿が胸に迫る。

謎を追うストーリーの合間に、アウグステの誕生から成長をたどり直す形で、ナチスがどのように台頭していったかが描かれる。ごく普通の人々の無関心と熱狂、流れに逆らうことの難しさ、誰の中にもある悪。これは現在の私たちにつながる物語ではないか。震撼する。まさに今読むべき傑作だ。