イメージ(写真提供:写真AC)
コロナ禍で特に甚大な影響を被ったのは、非正規労働者や自営業者だろう。職場の都合で仕事がなくなったり、営業自粛を求められたりして、収入がなくなった人が大勢いる。彼らはその日々をどう生きてきたのか。生活者のリアルな声を取材した

今までで最高の売上額を出したにもかかわらず

自粛期間中に、長年勤めた会社から突然、「契約満了」を言い渡された人がいる。外資系ハイブランドのジュエリーの販売職に、実に約30年間身を置いてきた耀子さん(63歳・仮名)だ。この職に就いたのは1990年代初頭。都内の百貨店内にある店舗のスタッフとしてキャリアをスタートさせ、富裕層の顧客宅で直接販売を行う外商や、他百貨店への店舗オープンにも複数携わった。顧客からの信頼も厚く、「あなたがいるから」と店舗に足を運ぶ人は多かった。

「60歳まで正社員として働いて、定年退職したあとは契約社員になりました。契約更新は1年ごとで、毎年5月に会社との面談があります。ある日、本社に呼ばれて出社したところ、その場で『契約の更新はしない』と告げられました。前年度の自分の売り上げは今までで一番いい数字でした。なので、本当にまさかの出来事で……」

評価に対する面接は一切なく、突然の言い渡しだった。

「多角的に判断したうえでの決定事項だと言われました。理由のひとつは、コロナの影響による人員整理。それから、現場のスタッフ同士のトラブルについて、私にも原因があると言われました。ただ、そのことに関しては努力してきましたし、一方で本社は何もしてくれなかった。それなのに急に責任を押し付けるの? と、理不尽さを感じました」

どんなにブランドのために功績を上げても、今は契約社員。そのため、長年の仕事ぶりは関係なく、契約を新しく交わしてからの1年間の内容しか評価されない。会社のドライな姿勢にも落胆した。

「退職を言い渡された直後は、朝家を出たときとはまるで違う自分になったようで、部屋には帰れない、消えてなくなりたい、と思いました。本社からトボトボ歩いてたどり着いたのは、勤務先の百貨店。職場を眺めていたら、人のせいにするのではなく、自分が後悔しないように生きなきゃ、という思いが湧いてきたんです」