厳しくとも、再就労では「なんでもいい」を封印する

覚悟を決めた耀子さんがまず取り掛かったのは、顧客に連絡を入れることだった。手紙や電話で長年の感謝の思いを伝えると、営業再開後、次々と顧客が現れた。

「20名ほどの方がいらして、励ましの言葉をくださいました。『あなたなら大丈夫』『ピンチはチャンス!』『会社はしょせん会社。人生は楽しんだもの勝ち』など。心が震えました。お客様との関係は私にとって財産です」

退職後の生活資金は、貯金と失業保険。母親の勧めで50歳から始めた積立年金も頼りだ。地元には、両親が遺してくれた耀子さん名義の家もある。しかし地元に戻るかどうかはまだ決めていない。

「ひとり身ですし、毎月の家賃などお金の心配は尽きません。それに私の年齢での再就労は厳しいでしょうけれど、『なんでもいい』は封印して、あえて自分の選択肢を広げる道を進みたいです」

たとえば、サービス業の経験を活かして介護職の資格を取る。もしくは、日本舞踊の師範の資格をもっているため、それも活かせるかもしれない、と意欲的だ。

「『フランス人は日本の文化が好きだから、踊りをもってフランスに行くといい』と言ってくださる人もいます。職を急に失ってしばらくは落ち込みましたが、今はすでに前を向いています。それもこれも、お客様からの宝物のような言葉のおかげ。これからも社会とつながって、さまざまなご縁に感謝しながら、自分自身を成長させていきたいです」


《ルポ》ステイホームで一変した日常
【1】休校で非常勤講師の妻は無給に。受験生2人の塾代が捻出できず…
【2】自粛期間中に「契約満了」。30年間培った販売職の実績も評価されず
【3】バーのお客が2割まで激減。早朝バイトとの掛け持ちを始めるも
【4】イベント中止で夫は開店休業状態。6人1匹の大家族を支えるのは