退職金は、家のローン返済で瞬く間に消え
転機が訪れたのは、12年前。60歳の夫が、定年後の嘱託勤務を打診されたにもかかわらず、「情けをかけられてまで勤めたくない」と、断ったのだ。
「退職金は、家のローン返済で瞬く間に消えました。でも、夫は『俺はもう働かない』とハローワークに行こうともしません。『だったら、私が働きに出るよ!』と宣言したら、むっと黙りこんだんです。ああ、これはいいということだなと思い、すぐに職探しを始めました」
まずはハローワークへ。だが、募集要項に年齢制限がない求人を選んでも、問い合わせると「実は50歳までです」と断られてしまう。
落ち込んだ帰り道、近所の100円均一ショップの入口でパート募集の貼り紙を発見。おそるおそる面接を受けてみると、即採用される。週4日・5時間で時給800円、月収6万5000円の仕事を得ることができた。だが、翌年その店は倒産してしまう。
めげずにすぐとんかつ店の貼り紙で店員の口を見つけ、月収7万円を稼いだものの、3年目に店主の都合で閉店。
その後たどり着いたのが、友人から紹介された、中学校の特別支援学級で担任教師を手伝う補助員の仕事だった。週5日・7時間で月収14万円という好条件だ。
「これが、思い出すのもつらい仕事で……。先生たちが厳しく当たってくるんです。床を拭いていると、『掃除させるために雇ったんじゃない!』。疲れたと訴える子をベンチに座らせれば、『特別扱いしないで!』。良かれと思ってやったことが裏目に出て、毎日怒られていたんです。ひたすら我慢して、契約が切れる3年目に退職しました」