お気に入りの服にある日、裏切られる
地曳 村山さんの新刊『燃える波』の中に、〈絶対にすれ違わないおばちゃんの話〉がありましたね。向こうから中年の女性が歩いてきて、服の趣味は好みなのに、なんだか着方がだらしない。くすんでる人だな、と思ったら鏡に映っている自分だったという。
村山 あれ、実話なんですよ。私の実体験。あの時はギョッとしました。
地曳 50代あるあるですよ。ふと見た鏡の中に老いた母親がいる! とか。多くの人が経験している「50の壁」です。
村山 最近、特に壁を感じますね。たとえば春に着ていたお気に入りの黒のワンピースが、秋には似合わなくなっている。肉がたるんで、変なところにシワが入るようになったりして。久しぶりの服に袖を通したら、もっと残酷な裏切りに遭う。
地曳 自分が「経年劣化」していると頭ではわかっていても、目に見せつけられるとショックですよね。50代半ばぐらいから、女性は痩せたり太ったり、胸も重力に負けて下がってきたり、体形の個人差が大きくなります。以前と胸の位置が変わると、同じ服でも印象はずい分、違ってくるもの。雑誌では女性を応援したい気持ちで「50代、まだ大丈夫」なんて謳われますが、大丈夫ではありません。もっと自分と向き合わないと。
村山 試着室で啞然とすることもあります。若い頃ならはつらつとして見えたものが、なんでしょうね、汚らしく見えちゃう。それに、体へのダメージも。ちょっと袖がタイトなデザインのコートを着て出かけたら、翌日、腕が上がらなくなるわ、背中が痛くなるわ。
地曳 頑張ってハイヒールを履いたら足が筋肉痛になって、マッサージに1万円もかかっちゃった、とか。
村山 最近は、おしゃれのために頑張れなくなっている自分がいます。取材を受けた折の記事が載った誌面を見たときに、「何でこんな服着ちゃったんだろう」と愕然とすることも。
地曳 でもそれも重要なこと。人前に出たり、誰かと会ったりするのは、「おしゃれボケ」防止になります。
村山 ある種のショック療法ですか。でも、後から知るのは、案外、痛手が大きくて。