「春に着ていたお気に入りの黒のワンピースが、秋には似合わなくなっている。肉がたるんで、変なところにシワが入るようになったりして」(村山さん:左)「自分が『経年劣化』していると頭ではわかっていても、目に見せつけられるとショックですよね」(地曳さん:右)
主人公は42歳、ライフスタイリストの三崎帆奈美。同級生だったカメラマンとの再会を機に、凪のような結婚生活と仕事に変化が訪れる。ここから新しい世界へ踏み出していくのかーー揺れる女性の姿を描いた村山由佳さんの小説「燃える波」が、このたび文庫版となって発売されました。この作品の単行本化の際、「大人の女性のおしゃれ」について人気スタイリストの地曳いく子さんと対談を行った村山さん。年齢を重ねると難しくなっていくものの筆頭が「おしゃれ」。そう実感する二人の本音満載対談を再掲します(構成:島田ゆかり 撮影:清水朝子)

お気に入りの服にある日、裏切られる

地曳 村山さんの新刊『燃える波』の中に、〈絶対にすれ違わないおばちゃんの話〉がありましたね。向こうから中年の女性が歩いてきて、服の趣味は好みなのに、なんだか着方がだらしない。くすんでる人だな、と思ったら鏡に映っている自分だったという。

村山 あれ、実話なんですよ。私の実体験。あの時はギョッとしました。

地曳 50代あるあるですよ。ふと見た鏡の中に老いた母親がいる! とか。多くの人が経験している「50の壁」です。

村山 最近、特に壁を感じますね。たとえば春に着ていたお気に入りの黒のワンピースが、秋には似合わなくなっている。肉がたるんで、変なところにシワが入るようになったりして。久しぶりの服に袖を通したら、もっと残酷な裏切りに遭う。

地曳 自分が「経年劣化」していると頭ではわかっていても、目に見せつけられるとショックですよね。50代半ばぐらいから、女性は痩せたり太ったり、胸も重力に負けて下がってきたり、体形の個人差が大きくなります。以前と胸の位置が変わると、同じ服でも印象はずい分、違ってくるもの。雑誌では女性を応援したい気持ちで「50代、まだ大丈夫」なんて謳われますが、大丈夫ではありません。もっと自分と向き合わないと。

村山 試着室で啞然とすることもあります。若い頃ならはつらつとして見えたものが、なんでしょうね、汚らしく見えちゃう。それに、体へのダメージも。ちょっと袖がタイトなデザインのコートを着て出かけたら、翌日、腕が上がらなくなるわ、背中が痛くなるわ。

地曳 頑張ってハイヒールを履いたら足が筋肉痛になって、マッサージに1万円もかかっちゃった、とか。

村山 最近は、おしゃれのために頑張れなくなっている自分がいます。取材を受けた折の記事が載った誌面を見たときに、「何でこんな服着ちゃったんだろう」と愕然とすることも。

地曳 でもそれも重要なこと。人前に出たり、誰かと会ったりするのは、「おしゃれボケ」防止になります。

村山 ある種のショック療法ですか。でも、後から知るのは、案外、痛手が大きくて。