若さを手放して、得られるものは

村山 先日、パーソナリティをしているラジオ番組に、30代の方から「自分はもうおばさんで終わりだ」みたいなメールをいただきました。30代でおばさんだったら、こっちは……と思いますが、でもそれだけ、今の世の中は「若さ信仰」が強いということでしょうね。

地曳 私たちと同世代にも「若見えの呪い」にかかっている人は多いですよ。若く見せたい、でもその方向が間違っていることには気づかない。昔、自分がイケていた頃の格好を目指してしまうのです。今、着るべきなのは、今の自分が素敵に見える服なのに。

村山 前に、桃井かおりさんが「第2ボタンが外せるようになった」とおっしゃっていました。バストの位置が下がったので、胸元が深く開いていてもいやらしく見えなくなったという意味でしょうが、最近、私も実感しますね。私の場合はジュエリーが似合うようになったなあと。手が枯れてくると、キラキラしたものがしっくりくるような気がします。

地曳 光りものは若くてハリのあり過ぎる肌よりも、少しつやが落ち着いてマットな肌のほうが似合います。大人の特権ですよ。

村山 私も地曳さんもライダースジャケットが好きですよね。たまにライダースを着てスニーカーを履いているおばあちゃんを見かけたりしますが、私もあんなふうになりたい。

地曳 今は、軽くて柔らかい素材のものがどんどん出ているので、「おばあちゃんに優しいライダース」はきっとあります。おばあちゃん世代じゃなくても、もう重いものは着たくないし、体も受けつけないもの。若さにはしがみつきたくないけど、好きなものにはしがみついていい。そのとき、技術の進化に頼れる部分はおおいに頼っていいと思います。

村山 そう考えたら、年をとってからの楽しみがひとつ増えますね。

村山さんの新刊『燃える波』中公文庫

地曳 村山さんは、執筆中はどんな格好をなさっているのですか?

村山 「さあ、今日は色っぽい場面を書くぞ」というときは勝負下着を身に着けます。上質なレースがあしらわれていて、肌触りもすばらしいというような。もちろんその上に服を着ますが、男と女のことを書くときに、気楽すぎる格好ではダメですね。一方で、男性主人公の「僕」のひとり語りで書くようなときには、ボーイッシュな格好をして書いたりします。

地曳 コスプレはきっと効果があるでしょうね。

村山 朝、「今日、書くものは……」と考えて服を選ぶと、気持ちをキャラクターに近づけられます。ファッションは、それぐらい心理状態に深く働きかけるものだと実感しますね。

地曳 おしゃれって、最終的には自分の気持ちを上げるためのものですよ。そのうえで気分よく仕事をして、気分よく生きる。これから先さらに年齢を重ねても、もっともっと楽しみは広がっていきます。