夫の純粋な親切を仇でかえすことになった

夫としてのイヴに今でも感謝しているのは、東京オリンピックのあった1964(昭和39)年までの7年間、毎年日本への里帰りの航空券をプレゼントしてくれたこと。しかも、いつもファーストクラスで。当時は日本のお金を海外へ持ち出すことが禁じられていたので、私は日本にあった自分の蓄えをいっさい使えなかった。そんな私のために航空券を手配してくれるイヴの思いは、大事な一人娘を気持ちよく手放してくれた私の両親への恩返しだったと思うの。

はじめての里帰りのとき、タラップを降りた私の目に信じられない光景が飛びこんできました。黒山の報道陣、眼が眩むほどのフラッシュ。思いもしなかった歓迎にただ驚きました。もっと驚いたのは、松竹の巨匠・木下惠介監督が、台本を用意して待っていてくださったこと。『風花』という脚本をポンと私に渡して「お帰りなさい!」とおっしゃった。感激しました。溢れる涙をこらえるのがやっとでした。

──それからは毎年帰国されるたびに、待っていたようにいい作品に出られましたね。

あれからのほうが作品に恵まれました。航空券をプレゼントしてくれた夫のやさしさが女優・岸惠子の思わぬ復活になって、でも、今思えば、それが離婚の遠因になったかもしれませんね。夫の純粋な親切を仇でかえすことになったようで、申し訳なく思っています。

撮影:大河内禎

〈後編につづく〉
※配信は5月22日20時の予定です 

 

 


トークショー「岸惠子ひとり語り 輝ける夕暮れ」開催中

前半に一人芝居「わりなき恋」を上演、後半は稀代の話し手でもある岸さんのフリートーク。「これは夢物語かもしれませんけど、人生の夕暮れどきに、ぱっと虹が立つような輝きが現れるかもしれない、夕空のなかを生きる、もう若くはない男や女が幸せであってもいいのではないか。そんな想いをこめて、この題名をつけました。笑いや切なさなど、ちょっぴり興奮していただけたら嬉しいです」(岸さん)

5/18 新宿文化センター大ホール
5/23 日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
5/28 埼玉会館 大ホール
6/2 千葉市民会館大ホール
6/5 相模女子大学グリーンホール大ホール
6/8 たましんRISURUホール大ホール
6/11 大阪フェスティバルホール
6/17 なかのZERO大ホール
6/20 関内ホール
6/27 八千代市市民会館大ホール
※各回開演時間は14:00

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